愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする
「ちょうど今、進路に悩んでいてさ。主人公が妙に自分に重なっちゃって柄にもなく泣いてしまったんだ。でも泣いたおかげですっきりして、自分の進むべき道に覚悟を持つことができたよ」

「そうだったんですね」

 この時は彼がどんな道に進むことを決めたのか、深く聞くことはなかった。もし聞いていたとしたら、私の人生は大きく変わっていたかもしれない。

 次にまた会う約束をして店を出ると、彼はバッグの中から綺麗にアイロンされた私のハンカチと小さな箱を取り出した。

「これは?」

 思わず遼生さんと差し出されたものを交互に見てしまう。

「この前はハンカチを貸してくれて本当にありがとう。これはちょっとしたお礼だから受け取って」

「お礼って、そんな……っ! 食事代だって出してもらったのに、さらにプレゼントまで受け取れません。お気持ちだけで十分です」

 フルコースの料理代は、けっこうな金額だったはず。ハンカチ一枚のお礼にしては高すぎるほどだ。

 しかし遼生さんは引かず、困ったように眉尻を下げた。
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