真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬致します。婚約破棄しましょう
「離してくださいませ、殿下」
「いや、話を聞くまでは離さない」
「わたくしも真実の愛とやらを見つけたくなりましたの。わたくしの相手は殿下ではございませんでしょう? 今までわたくしと過ごしていた時間を子爵令嬢に当ててくださいましね、それでは失礼し、」
「……相手にあてはあるのか?」
「ですから見つけたいと思っております」
「私が邪魔と言うことか?」
「おかしな事を仰らないでくださいまし。殿下が真実の愛を見つけたのですよ?殿下の恋の相手は子爵令嬢であり、わたくしではございません」
「……それは、そうだが、」
「真実の愛を邪魔するなんて野暮な真似はしたくないのです。今なら婚約破棄の慰謝料は無しにしてもらうように、父を説得しますよ?」
「……どうしてそこまで、」
「応援していますわよ!頑張ってくださいましね殿下」
「君と過ごした十年間が無駄になるのは心苦しいよ」
「わたくしとの事を天秤にかけるのはおかしいのですわよ? 殿下は愛の重さをお知りになったのでしょう?」
「……もしかしたら気のせいかも、」
「ふふふ、わたくしのことは気になさらずに殿下はご自分の選んだ道を全うしてください」
「しかしだな」
「はい、まずサインをしましょう。それからゆっくり考えましょうね」
「ゆっくり…」
「そうです、サインをしてからでも、考える時間はたっぷりございますでしょう?」
「そうなのか?」
「えぇ、わたくしは逃げも隠れも致しません」
「愛とはそう言うものなんだな」
「おそらくは……わたくしは知り得ませんですけどね」
ペンを握るサロモン、もうサインするしかなかった……