悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 翌日には嘘みたいに熱が下がって、頭の中はスッキリはっきりしていた。一気に前世の記憶が押し寄せてきたので、それから三日間は混乱する部分もあったけれど、記憶がしっかり整理されてだいぶ落ち着いている。

 紅茶を口に運びながら、私は改めて自分の現状を把握しようと思考を巡らせた。

 どうやら前世の私は、今の私に転生してきたようだ。しかも前世の記憶によると、婚約破棄された上にクリストファー殿下に断罪される悪役令嬢だ。そんな馬鹿みたいな話と思うけれど、現実問題として私の身に起こっているのだから受け入れるしかない。

 だけど物語は始まっていないとわかる。『勇者の末裔』は五百年前に魔王を倒した英雄が忽然と姿を消したことが始まりだ。

 その末裔である辺境伯令嬢のイリスが主人公の物語で、馬に乗り、野を駆け、剣を振り回し、それはもうお転婆な女性だ。ある日の夜会でクリストファー殿下と出会い、お互い恋に落ちるけれど王太子には婚約者がいるので気持ちを抑えていた。

 それでもどんどん心惹かれ合い、私が刺客を送った際に証拠を掴み断罪。その後もなんやかんやあって、ようやくイリスとクリストファー殿下は結ばれる。そんなお話だと美華が言っていた。

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