悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 目立たないように、私は町娘、フレッドは商家の子息の格好をして、あの時脱出し損ねた搬入口から外へ出た。ふたりで街を歩いているけれど、フレッドとは目線も合わせず口も利いてない。

「ユーリ。そんなに怒らないでくれ。あの部屋が防犯上一番安全だったんだ」
「…………」

 だって皇太子妃の部屋で過ごしていたら、皇城で働く人たちはみんな私がフレッドの婚約者になると思うではないか。中には貴族の令嬢や令息もいるのだ。子から親へ、親は友人へ、友人から友人へと話は広がって、いつしか公然の婚約者として認知されてしまう。

 昨夜の皇帝陛下と皇后陛下の様子から、そこまでいったら絶対に逃げられない。着々と外堀を埋められて、私のダラの時間が遠ざかっていく。

「……わかった。それなら皇太子は返上する。今まで通りユーリの専属護衛でいるから俺と結婚してくれる?」
「なんでそうなるのよ!? 私はただ……」

 ただ、勝手に進めてほしくなかった。私の気持ちをちゃんと汲んでほしかった。
 フレッドの気持ちは嬉しいし、ずっと私のそばにいてくれた。いつも誠実に接してくれたから、返事を待ってほしかっただけだ。
 さすがに皇太子だとは思わなかったけれど、それでも本当に一緒にいたいと思えたら受け入れるつもりだった。

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