悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 確かに平民だから貴族のように挨拶ができなくても、もう少しやりようがあるだろう。

 それにこのノリは十中八九、転生者で間違いない。ミカにチラリと視線を向けると、同じことを考えていたようで無言で頷きあった。

「すごぉ〜い! 私ぃカラーじゃない銀髪って初めてみたわ! すごく綺麗……ねぇ、まだ皇太子は結婚してないのよね?」

 そう言いながら、へレーナはフレッドの前まで進んでサラサラの銀髪に手を伸ばした。モヤッとした黒い感情が胸に広がる。

 なんだかわからないけれど、その無遠慮で不躾な態度にイラついたのだと思った。

「すみません、私に触れないでいただきたい」

 フレッドはすかさず一歩下がり、へレーナの指先を交わした。
 それにして、あの話し方、ボディタッチの仕方、異性との距離感。すべてがあの後輩、宮田玲奈(れいな)に見える。
 いや、まさか。そこまで世間は狭くないだろうと、試しに名前を呼んでみた。

「宮田玲奈……」
「……え? なんでその名前を知ってるの?」

 へレーナは不思議そうな顔で、私に視線を向ける。
 反応した……!!
 これは、本当に中身はあの宮田さんなのか……?

「失礼いたしました。街で情報を集めていたら、聖女様と同郷の方がいて教えてくださったのです」
「ふうん、すごい偶然ね。まあ、いいわ。それより、皇太子様はまだ結婚されてないのでしょう?」

 私が名前を呼んだことなどどうでもいいという風に、妖艶に腕を組んで皇帝に向き直る。

 閉じ込めていた記憶が蘇り、ざわりとした嫌な感覚に包まれた。皇帝陛下は探るような瞳で「そうだ」と短く答えた。

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