悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「聖女へレーナ様、私ユーリエス・フランセルでございます」

 ところが、先ぶれを出したはずなのになんの返事もない。しばらく待っても反応がないので、もう一度扉をノックして声をかけようとしたところで、やっと扉が開く。

 へレーナと一緒にいた神官のひとりが、冷ややかな視線で私を見下ろしていた。

「先ぶれを出しました、ユーリエス・フランセルと申します。へレーナ様へご内密に話がございます」
「……どうぞ」

 すごくぶっきらぼうに部屋の中へと案内されたが、なにも言わずにおとなしく従った。

 大丈夫。なにかあっても、扉の外にはフレッドがいるし。胸元についているブローチで映像を記録しているから、なにか疑いをかけられても私の潔白は証明してくれる。

 特別貴賓室は皇太子妃の部屋よりも豪華絢爛な装飾が施され、煌びやかなのに品がある。ダークブラウンの艶のある家具で揃えられシックな雰囲気だ。カーテンやカーペットはボルドーで統一されて、落ち着きと華やかさが感じられた。

 部屋の中央に置かれたソファーに、バスローブ姿のへレーナが長い足を組んで座っている。私が来たことに気が付くと不満げな声を上げた。

< 118 / 224 >

この作品をシェア

pagetop