悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 ポツリと呟いた言葉を、ため息でかき消した。
 元の世界に帰る方法があるのかすらわからないのだ。ただギュッと拳を握って、耐えるしかない。でもきっと、美華なら大丈夫、私と違って友達もたくさんいたし、この前告白されたって言ってたし、きっと立ち直れるはず。

 美華のことは気になりつつも、自分の現状も捨て置けない。なにせこのままでは早かれ遅かれ処刑されてしまう。

 しかも残念なことに転生特典のようなものはないらしく、なんていうか、ただぶっ込んだだけみたいだ。ないものは仕方ないけれど、そうなったら私が頼れるのは朧げな物語の記憶と、前世の知識だけだ。

 それならば、クリストファー殿下の矯正は可能だろうか?

 クリストファー殿下は現在二十四歳、私は二十一歳。年下のしかも舐め腐っている相手から小言を言われたところで、聞く耳を持たないだろう。性格を変えるのは無理だ。つまりクリストファー殿下の浮気癖も治らない。

 これは前世でも経験した。浮気する奴はどんな状況でも浮気するし、それが悪いことだと思っていない。なんなら『俺に浮気させるお前が悪い』とかとんでも理論を持ち出してくる。ああ、これはDV気質のある男の場合だ。

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