悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 後ろでお茶のおかわりを用意していたモニカが、怪訝な表情で私を見つめている。高熱が続いたせいで頭がおかしくなったと言いたいみたいだ。モニカはもう八年も私の専属メイドを務めている信頼できる使用人で、こんな風に気軽に話してくれる。

 公爵家で長く働く使用人たちは、親しみを込めて私をユーリと呼んでくれた。父も母も愛情を込めて私を大切に育ててくれたのだ。

 前世では得られなかった温かいものがここにある。相変わらず男運だけは悪いみたいだけど、愛情あふれるこの公爵家のみんなにはこれからも笑顔でいてほしい。

「コホン。大丈夫よ。それより紙とペンを用意してくれる? リストを作りたいの」
「承知しました」

 そのためにはなにから始めればいいのか。
 処刑を避けられたら一番いいけれど、私はこの物語がいつ始まるのか知らない。最悪、私が処刑されたら公爵家にも累が及ぶのは明白だ。

 私はさまざまなケースを考え、TODOリストを作り上げていく。前世の記憶も思い出したことで、できる幅が増えたのでなんとかなりそうだ。 

「よし、方向性は決まったわ。ふふふ、絶対に危険を回避して、ダラのプロになるのよ……!」
「ユーリ様……まだ完全に回復されてないのですね。おかわいそうに」
「大丈夫よ、モニカ。至って正常だわ。これから手紙を書くから、それを届けるように手配してくれる?」
「はい、承知しました」

 こうして私は破滅回避の一歩を踏み出した。


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