悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 ガチャリと音がして、護衛が降り立つ。エスコートされて馬車から降りてきたのは、懐かしい顔だった。

「レイチェル様……?」
「やっぱり! やっぱりユーリエス様でしたのね!」

 私の化粧水をバスティア王国で独占販売している、侯爵令嬢のレイチェル様だ。彼女とはクリストファー殿下の謝罪から打ち解けており、信頼のおける令嬢だ。

「それにしても、そのへアスタイル……随分バッサリとカットされましたのね。おかげで見逃すところでしたわ」
「あはは……いろいろと事情がありまして」
「それはわたくしも小耳に挟んでおります。ですが到底信じられなくて……ユーリエス様の向かうところまでお送りしますので、よろしければ馬車に乗ってくださいませ」

 その申し出はありがたいけれど逡巡する。確かにレイチェル様は信頼できるが、私たちを乗せて影響はないのだろうか? 大商会を営む侯爵家のご令嬢だ。万が一にも帝国から目をつけられたら後悔しても仕切れない。

「ふふ、巻き込んでしまわないかのご心配でしたら無用ですわ。これでも当家はあらゆる伝手がございます。ご安心くださいませ」

 まるで私の心を読んだかのようにズバリとほしい答えを返してくれた。

< 142 / 224 >

この作品をシェア

pagetop