悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「ユーリに手を出したのは、お前か」
「ふんっ、その女が悪いのよ。上から目線でうるさく言うんだから。あんまりうるさいから黙らせただけでしょ」
「フレッド、大丈夫だから」

 ここで怒りに任せてフレッドが暴走しては、この後どう事態が動くかわからない。作戦通りに——と口の動きだけでフレッドに伝えるとグッと怒りを呑み込んでくれた。

「今すぐユーリの指名手配を解け。それも条件のはずだな」
「ふふっ、私の目的はあの女が泣いて悔しがることなの。これだけじゃ足りないかなぁ〜」
「早く指名手配を解け」

 へレーナはニヤリと笑ってフレッドの胸元に手を伸ばす。それはまるで前世で私の恋人に触れたように、フレッド越しに私を見つめてきた。

 困ったようにでも嬉しそうに笑っていた恋人の横顔と、今と同じように優越感に浸った宮田さんの顔がフラッシュバックする。あの後、恋人が私を振り返ることはなかった。私に背を向けたまま、他に好きな人ができたと別れを告げられた。

「それにしても、本当に整った顔といい身体してるわ……ふふ。夫婦になるんだし、楽しまないともったいないよね?」
「…………」
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