悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 私の掛け声で影の中から皇族を守る影たちが一斉に現れた。手には大きな麻袋を持っている。一瞬にして現れた影たちにへレーナもクリストファーも驚いて声も出ない。

「今よ!!」

 影たちが持っている麻袋を投げつけたタイミングで、皇帝陛下の影が飛び出しへレーナの頭上で切り裂いた。
 裂かれた麻袋からこぼれ落ちたのは、海の恵みをたっぷりと含んだ大量の塩だ。

 容赦なく降り注ぐ塩にへレーナは声にならない声を上げる。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

 真っ白な穢れなき結晶に塗れたへレーナは声もなくのたうち回る。やがて役目を果たした塩が黒ずんでドロドロに溶けていった。

「よかった……効いたんだ……」

 穢れを浄化するという言葉を聞いて、私は両親の葬儀を思い出した。火葬場から戻ってきて、玄関で美華と塩をかけ合い身を清めた。

 悲しい思い出だったけれど、塩には浄化の作用があり、塩の結晶も透明だと思い至った。聖剣が透明だったのも、なんらかの方法で塩の浄化効果が含まれていたからではないのかと考えた。

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