悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 だけど現実は無情で、家具もすべて処分されガランとした空間がそこにあるだけだった。二階にあるユーリの私室もわずかな残り香が鼻先を掠めるだけで、なにもかもなくなっていた。

 呆然としながら、ふたりでよく笑って過ごしたリビングを眺めていた。
 ふと、なにかが床にあると気付き急いで拾い上げる。これもユーリからの手紙で、中には心置きなくイリスと結ばれてくれと書かれていた。

 どういうことかまったくわからないが、どうやらユーリはなにかを派手に勘違いしているようだと、やっと理解した。

「はあああ……あれだけ好きと伝えたのに、なぜわかってくれないんだ……俺の伝え方が悪いのか? もしかして言葉だけでは足りない……?」

 言葉だけで足りないのなら、後はもう俺がユーリにどれほど惚れているのか身体でわかってもらうしかない。

「身体から落とすか……? いや待て。下着だけで三日も視線が合わなかったんだ、そんなことしたら一生口を利いてもらえないかもしれないし、無理やりなんてしたくない」

 それなら、じっくりと対話して誤解を解くしか方法はない。だけど。

「次に会ったら……二度と手放さない」

 俺はそのためならどんなことでもしようと、覚悟を決めた。



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