悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 それから二日後の朝、やっと落ち着いたフレッドは爽やかな笑顔で言い放つ。

「明後日が婚約式だから、そろそろ帝都に帰ろう」

 突然の宣告に頭が真っ白になる。婚約式。皇太子の婚約式だ。ちょっと友人や親戚を呼んでささやかなパーティーを……なんて規模じゃないのは確かだ。

「え? ちょっと待って、私なにも準備ができてないけど!? お父様にも許可をもらわないと……!」
「準備はこちらで整えてあるし、フランセル公爵にはすでに許可をいただいている」
「いつの間に……!」

 いつからそんな準備を進めていたのか。少なとも私が皇城を去ってからだとしても、一カ月くらいしか時間が経ってない。皇帝ならできなくもなさそうだけど、そんなことに権力を使っていいのか?

 愕然とする私に、それはもういい笑顔で「準備は抜かりない」とフレッドは言った。

 宿泊中はフレッドが全面的に世話をしてくれたので、いまだにご主人と女将さんには顔を合わせていない。今度こそきちんと着替えて、三日ぶりにお詫びとお礼を兼ねて挨拶をした。

 以前の気さくな態度がすっかり消え失せたのが残念だったので、不敬罪には絶対に問わないから今まで通りにしてくれと頼んだ。フレッドもそれでいいと口添えしてくれたので、ホッとした様子でふたりは温かい笑顔を向けてくれた。



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