悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「でもすごいわね、サイズまでぴったりだわ」
「ああ、それは何度もユーリをベッドまで運んでいたからな。感覚で」
「えっ……フレッドが? あれでわかるの!?」

 確かに何度か一階のリビングから二階の私室まで運んでもらったけれど!?

「お姉ちゃん、お兄様のチート能力をみくびったらダメよ」
「チート……これがチート!?」
「なんだかよくわからないが、これくらいみんなできるだろう?」
「できませんから!!」

 それから時間はあっという間で、 翌日には婚約式を執り行うリンフォード帝国一の大聖堂にやってきた。
 目の前の扉の先では参列者たちが待っている。私とフレッドは入場の合図である管楽器の演奏が始まるのを、ふたりで静かに待っていた。

 フレッドは髪を後ろに流してその美貌を惜しみなく披露し、鍛え上げられた身体が映えるようにフィットした燕尾服を身にまとっている。

 黒地に銀糸の刺繍がされ、胸元には鮮やかな青と淡い紫の小さな花が飾られていた。私たちの衣装はお互いの色を取り入れて、これから先の人生を共に歩んでいくのだと言っているみたいだ。

「フレッド、とても素敵だわ」
「……やっぱり婚約式をやめよう」
「え、それはダメでしょう」
「だが……いつもにも増して美しいユーリを誰にも見せたくない」

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