悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「ミカエラ様、少し休憩しましょうか」
「あ、はい」

 ヨシュア様はいつもの笑顔で振り向いて、わたしの手を引き会場を後にした。人通りが少ない通路にふたりの足音がコツコツと響く。

 こっちは確か個室があって、具合の悪くなった参加者が休む場所だよね……あ、そうか。わたしが疲れたと思って気を遣ってくれたんだ。うはああ、やっぱりヨシュア様ってば優しい〜!!

 空いている部屋にふたりで入り、ヨシュア様は後ろでに鍵をかける。使用中はこうして鍵をかけておけば、誰も入ってこないからゆっくりできるのだ。
 ソファーに座ろうとして、ヨシュア様に突然抱きしめられた。

 なんだこれは、夢か? 天国か? 妄想か?

「ミカエラ様は私に嫉妬させたくて、あんな男に捕まっていたのですか?」
「え? ちが——」

 わたしの言葉は、ヨシュア様の口づけで塞がれてしまった。ヨシュア様の神の如く麗しいお顔が超ドアップで眼前にある。ついに妄想が現実に飛び出したのかと、自分を残念に思った。

 ところが、ヨシュア様は今まで見たことがないような表情でわたしを見下ろしている。それはまるで獲物を狙う肉食動物のようだ。ここで妄想ではなく現実だと我に返る。

< 215 / 224 >

この作品をシェア

pagetop