悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 馬車を乗り継ぎ、十日ほど移動を続けてやっと目的地に着く。
 白亜の壁に赤い屋根の一戸建てが私の新しい住まいだ。護衛の部屋と私の寝室、仕事部屋にリビングとキッチンだけのこぢんまりした一戸建ては、帝都の外れに位置している。

 すでに部屋の内装も整えてあるから、少し買い物をすればすぐに生活が始められる状態だ。ここまでの準備はフレッドの親しい知人であるヨシュア様にお願いしていた。貴族の三男で商会を営んでるというので適任だったのだ。

「ヨシュアさん、ここまで完璧に手配してくださって、本当にありがとうございます!」
「いえいえ、フレッドの大切なお方ですから、誠心誠意お応えしただけです」
「おい、ヨシュア。もう大丈夫だから、自分の仕事へ戻ってくれ」
「へえ、焦るフレッドなんて珍しいですね。ふふ、いつでもお力になりますので遠慮なく頼ってくださいね」

 ヨシュアさんは夕日みたいな瞳を細めて笑う。初めてお会いしたけれど、太陽みたいに明るくて温かい人だと感じた。美華とすごくお似合いのカップルになりそうだ。

 フレッドの古くからの知人らしく、帝国での大きな買い物はヨシュアさんにお任せすると決めた。それから私は化粧品販売の指揮を取りつつ、悠々自適な生活を送り始めた。

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