悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 馬車で向かった先は王都から出て南に三十分ほど下ったところにある森だった。

「ユーリエス様、このような森にいったいどんなご用なのですか?」
「薬草の採取よ。あ、この森は魔物も出るから、しっかり護衛してね」
「護衛はしますが、薬草など王都でも売っているではありませんか」

 すると、漆黒の艶髪が揺れてユーリエスが振り向いた。

「私には、なにがなんでも、やらなければならないことがあるの。そのためにはツルツル草が絶対に必要なの」
「ツルツル草」
「そうよ、家の図書室で調べたけど、きっとこの薬草が私の求めていた答えだわ」

 そう言ってまた前を向いて歩き出した。ツルツル草なんてかすり傷を直すくらいしか治癒効果がなく、食べても苦いだけの売り物にもならない薬草だ。
 それをわざわざ拾いに来るなんて、なんというか箱入り娘の道楽かなにかなのだろうか?

「あった! あったわ!!」

 ユーリエスは服が汚れるのも、顔に泥がつくのも気にせず、薬草を手に入れた。その時の満面の笑みが俺の心に焼きついた。それからユーリエスの人となりを注意深く観察しはじめた。

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