悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「はあああ〜、やっとゆっくりできるわ〜!」

 寝転びながら街で買ってきた人気のマドレーヌを口の中に放り込んだ。

 ふわりと広がるバターの香りとコクのある甘さ、しっとりとしているのにふわふわの生地が口の中で(ほど)けていく。疲れ切った心を癒す極上スイーツに顔が緩む。

 紅茶をひと口飲んででスッキリしてから、サイドボードに置いてあった読みかけの本を手に取った。しおりを挟んだページを開き、あっという間に物語の世界に没頭していく。

 同じ姿勢では首や肩が痛くなるので、こまめに体勢を変えて本を読み続けた。

 大きなクッションに頭を乗せて、もうひとつの大きなクッションは膝の裏に入れて、小さなクッションは両脇に置いて肘を乗せる。これが一番お気に入りの体勢だ。

 少し手を伸ばせばサイドボードの上にあるスイーツもミックスナッツもつまめる。これが一番大事なので、食事のたびに食べた分を補充している。

 今読んでいるのは、この世界の恋愛物語だ。

 笑わない悪女が浮気した王太子から婚約破棄されて、爽快にやり返し隣国の皇太子から溺愛されるお話だ。悔しがる王太子にスッキリして皇太子のヤバいくらいの愛情に大満足だった。

 この世界でもこういうお話が読めるということは、日本人だろうが誰であろうが、感じるところは同じなのだ。正義には勝ってほしいし、悪者は報いを受けてほしい。そして主人公にはとことん愛されてほしいのだ。

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