悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 ベッドにユーリをそっと下ろし、すやすやと安心し切った様子で眠っている。無防備な寝顔を俺に晒すユーリ様に、囁くように懇願した。

「ユーリ様……どうか俺だけを見てください」

 そっと頬にかかった銀糸の髪を耳の後ろに流すと、指先がユーリ様の柔らかな頬を掠める。

 それは白磁のように滑らかでほんのり桃色に色づき、蠱惑(こわく)的な魅力を放っている。包み込むように優しく触れたら、もう抑えがきかない。触れるだけのキスをしようとして、ギリギリでこらえる。

 慌ててユーリに毛布をかけて、部屋を後にする。たまらずキスしそうになったのは両手では足りない。いつも寸前でなんとか止めて、騎士の面目を保っていた。



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