悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 そこで私はさも当然のように扉を開けて堂々と部屋から出た。だけど慌てた侍女がすぐに私の後を追ってくる。このままいけないかと思ったが、甘かったようだ。

「ユーリエス様、どうかなさいましたか?」
「いえ、アルフレッド殿下もミカエラ殿下もお忙しいようなので、この辺を散歩したいと思いまして」
「それでは私がご案内いたします」
「お願いするわ。そうねえ、どこか花が見れる場所がいいのだけど」
「かしこまりました」

 侍女は扉の横に立つ騎士に行き先を告げて、静かな廊下を歩き出した。姿勢もよく後ろ姿が美しいから、いい家のご令嬢なのだろう。そうであれば、突飛な行動にはついてこれないはず。それと、私が逃げ出しても処罰を受けないようにしていかないと。

 十分ほど広い通路を歩いて中庭までやってきた。途中で下女たちとすれ違ったけれど、みんな忙しそうにしていた。
 中庭はさほど大きくはないが色とりどりの花が咲き乱れ、生い茂る木が木陰を作り夏でも気持ちよく過ごせそうだ。吹き抜けになっていて日差しが心地いい。中庭の入り口には護衛の騎士がふたり立っていた。

「こちらはいかがでしょうか」
「ええ、とてもいいわ。あ、そうだわ。ここでアルフレッド殿下に手紙を書きたいから道具を用意してもらえるかしら?」
「かしこまりました」

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