悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 優雅に微笑んだまま中庭から脱出した。気まずそうに視線を逸らす騎士たちに心の中で謝りながら、角を曲がって姿が見えなくなったところで下女たちが使う通用扉に滑り込んだ。
 そのまま足早に暗い通路を抜けて、驚きに目を見開く下女に声をかける。

「あの、ごめんなさい。私ユーリエス様の侍女としてきたのだけど、実家からユーリエス様の好物が届くから受け取ってくるように言われたの。食材の搬入口はどちらになるかしら?」
「ああ、そうだったんですね。ドレスのお嬢様がこのようなところにいたので驚きました。こちらです」

 人のよさそうな下女は親切にも目的のところまで案内してくるという。こういった通路は入り組んでいて、まるで迷路のようだ。迷いのない足取りであっという間に、食材の搬入口まで案内してくれた。

「ありがとう。まだ来ていないみたいだから、ここで待っているわ」

 笑顔で手を振る下女にも心の中で謝罪する。搬入口は食材だけでなくさまざまな物が出入りしていた。真新しい下女の制服を見つけたので、こっそりと物陰で着替える。忙しなく動いているせいか、私が着替えたことに誰も気づいていない。

 ふふふ、私を閉じ込めようとしても無駄なのよ。今世では絶対にダラダラして過ごすんだから!

 浮かれた心で城の外へ一歩踏み出そうとして、私の足は宙を切った。
 逞しい腕に抱きかかえられ、視界には青空が飛び込んでくる。太陽に光を背にした男性が、私を見下ろしていた。

「惜しかったな」

 そこには、ニヤリと笑うフレッドの黒い笑顔があった。



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