悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「それで、なぜ逃げ出すんだ?」

 今度は専属の女性護衛騎士までつけられて、私はフレッドの詰問を受けていた。フレッドはソファーの対面に座り、長い足を組んで両手を乗せている。ものすごく絵になっているのがちょっと悔しい。

「私はフレッドのプロポーズに応えていないし、閉じ込められるのも嫌だわ」
「ではどうすれば俺の気持ちに応えてくれる?」

 フレッドは切なそうに眉をひそめて、訴えかける。一瞬、ぐっと胸に来たけれど、私だって譲れないものがあるのだ。

「そんなの知らないわ。少なくともこんな風に閉じ込めているうちは無理よ」
「……俺のことは嫌ってもいいが、ユーリを守ることは譲れない」
「守ってもらわなくても結構だわ」
「すまない、それは無理だ。クリストファーみたいな男にユーリが傷つけられるのを見たくない」

 そんな……まさかそんな理由で私を閉じ込めていたの?
 私が傷つかないために……そんな風に思っていてくれたんだ。

 ほろりと心の中にある氷が溶けていく。
 初めて言われたかもしれない。気持ちのこもっていない『好き』も『愛してる』も何度も聞いたけれど、私が傷つくのが嫌だなんて。そんな優しさにあふれた言葉を、私は知らない……いや、知らなかった。

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