悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「それなら、やはりユーリには俺のことを好きになってもらうしかないようだ」
「はい?」

 え、どうしてそういう発想になるのかしら?

「俺を好きになれば、プロポーズも受けてくれるだろう?」
「そ、そうね?」

 ああ、そういうことね。確かに好きならプロポーズを受け入れるけれど。

「わかった、それなら専属騎士に戻って、この手でユーリを守りながら口説き落とす」

 ……ねえ、結局もとに戻ってない?

 こうして私の皇城脱出は失敗に終わった。
 うっとりと私を見つめて微笑むフレッドは甘い空気を放ち、ソワソワと落ち着かない。

「ユーリエス様、ミカエラ殿下がお見えです」
「は、はい、通してください」

 そう言い終えるや否や、ミカエラ殿下が部屋に飛び込んできた。

「……聖女が現れたわ」

 聖女とは『勇者の末裔』の主人公イリスが、クリストファー殿下とともに打ち倒すはずの敵だ。邪教を崇め世界を闇に陥れる存在。その聖女が現れた。

 それはすでに物語が始まっていることを意味していた。


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