図書委員のさいとうさん。
町並みはどんなに美しくても、今の私には仕事がある。
パンを売ったり追加で作ったり……忙しい!そんな中、とてもみすぼらしい少女がパンを買いに来た。



「あぁアシェンプテル……いらっしゃい。外は寒かっただろう?ちょっと温まっていきな。」



母さんがとても優しく、少女に声を掛けた。
暖炉の近くに椅子を置いておいでおいでしている。



「いつもありがとうノラおばさん。」



綺麗な瞳に、可愛らしい笑顔。
ってちょっとまって……?
アシェンプテルって、灰かぶり……シンデレラのことよね!?

 

(私、あの童話の世界に入っている!!?)



ただ読んで寝ちゃっただけなのに。
夢……せめて夢であってほしいけど、夢にしてはリアルすぎる。



「リナ、こんにちは。」



アシェンプテルは私に向かって話しかけてきた。



「こんにちは、アシェンプテル……。これ、私が作ったパンの試作品なの。良かったら食べていって!」



「うわあ……とても美味しそう、ありがとうリナ!」



そう言いながらとても美味しそうに、幸せそうにアシェンプテル……シンデレラは私の作ったパンを食べ、買い物を済ませて帰っていった。



「可哀想になあ、奥方様が亡くなる前はあの子も幸せだったのに……。後妻がとんでもない悪魔のような女だから……。」



母さんと父さんがシンデレラを見送りながら何とかならないものかと呟いていた。



(ここは『灰かぶり』の中の世界。いまはまだお城に行く話は出ていないみたい。そして私は……シンデレラのお屋敷の近所のパン屋さん……!)



貴重、とても貴重な体験。
元の世界に戻れるのかどうかわからないけれども、本の中の世界がどうなっているのかも知りたい。
戻れないかもしれない恐怖が好奇心に負けた私は、しばらくこのままパン屋さん生活をすることにした。
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