図書委員のさいとうさん。
田村怜央
幼なじみの友達から、とんでもない話を聞いた。
図書室の本を読んだら本の中に入って色々な体験ができる、と。



「そんなアホな!」



俺はりなに言った。
夢でも見たんだろうと。
本の中に入れるなんて、そんなことあるわけ無いだろ!



「でもほんとに私、1ヶ月近くパン屋さんで働いてたの!しかもこれ!」



そう言って、色々な種類のパンを紙袋から出してきた。すべて手作りだと。
本の虫で料理なんてしたこともないはずのりな。俺はそれを知っていた。
なのに、いきなりパン作り名人となっていたのだ。



「………本見て作ったの?こんなに沢山。」



「違うよ!レオだって知ってるでしょ!私が料理できないの……。それなのに、何も見ないで作れるようになったの。本もネットも見ないで!今まで作ったこともないのに!間違いなくあの時のパン屋さんの経験のおかげだと思う………。」



本の中で経験したことを、現実に持ち帰ってきた。そう話すりな。
じゃあ試してみよう。
そう言って俺はいま、図書室に向かっている。



ガラガラガラ……。



図書室のドアを開けると、小柄でとても可愛い女の子がカウンターにいた。
女の子はこっちをみると、微笑んだ。



「こんにちは。」



「こ、こんにちは。」



りなの言ってた先輩……だよな?
さいとうさん。
この人が例の本を勧めてきた、と。



「本を、お探しですか?」



「あ、はい。ただあんまり本って読んだことなくて。なんかいいのあったら……と。」



「あら、素敵ね。これからたくさん読むといいわ。じゃあ……これはどうかしら?」



そう言って、さいとうさんは1冊の本を出してきてくれた。
『ラプンツェル』
聞いたことあるくらいで、内容は全く知らないやつだな。


まぁいっか、オススメだし。これにしとこ。



「じゃあ、それをお願いします。」



「了解。ではこちらに。」



カウンターで貸出カードを書いてくれた。
3/16 1-C 田村怜央



さらさらっ、ときれいな字でさいとうさんは俺の名前を書いた。
達筆だなぁこの人。



「お待たせしました、どうぞ。」



笑顔で俺に本を差し出した。



「あ、ありがとうございます。お借りします。」



可愛くてちょっとドキドキしてしまった。
なんてこったい。
ちょっと顔を赤らめながら俺は図書室をあとにした。






『……素敵な夢を、怜央さん。』



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