この一秒に、愛を込めて
ときどき、見る夢がある。あの、星空の夢だ。夢占いによると星の夢は吉夢とされていて、「願いが叶う」とか「目標を達成できる」とか、いいことばかり書かれている。全てを鵜呑みにするわけじゃないけれど、つい自分にいいように結び付けてしまうのが恋する乙女というもの——たぶん。
今日こそは進藤さんに声をかけよう、と決めている。気合を入れて、今日のお弁当にはトンカツを詰めてきた。……昨夜の残りだけど。
午前中、ドキドキしながら待っていたものの進藤さんは姿を見せなかった。よく考えたら、彼は毎日図書館に来るわけではないのだ。勝手に今日だと意気込んでいたけど、彼にだって都合はある。
紗織さんとお昼ご飯を食べている間も、いつ進藤さんが来るかとソワソワしてばかりだった。
「どうしたの、ひなたちゃん。今日ちょっと上の空じゃない?」
さすが紗織さん。鋭いな……。
隠していても仕方ないので、正直に打ち明けることにした。
「そっかあ……! ついに決心したのね! わかった、まかせて。進藤さんが来たら合図するから。ほら、私午後から書棚の方周るから」
「合図って……。ど、どうやってですか?」
「こっそりライン送るわ」
「えっ、駄目ですよ勤務中に!」
「大丈夫、バレないようにやるから。私を誰だと思ってんの」
紗織さんならやりかねないな、と思い私は苦笑した。
午後五時五十五分。あと五分で閉館だ。書棚を周っていた紗織さんも、とっくにカウンター業務へ戻っていた。こっそりラインをするチャンスもなく、なんだか少し残念そうだった。
ウィン、と自動ドアが開く音がして顔を上げると、男性が慌てた素振りで入ってきた——進藤隼汰だ。閉館直前にやって来るなんて珍しい。
進藤さんは書棚へは向かわず、迷いなくこちら——私の座るカウンターまでやって来る。
「すみません、まだ間に合いますか」
そう言うと、数冊に重ねられた本をカウンターにドン、と置いた。
「あ、返却ですね。大丈夫ですよ、お預かりしますね」
進藤さんはホッとした顔を見せた。
返却された本を一冊ずつ確認していく。『マチュピチュ完全ガイド』『古代マヤ文明』『天空の王国と謎』『ハイラム・ビンガム号に乗って』の四冊。この時はマチュピチュ縛りだったんだな。
今しか無い。声をかけなきゃ。こんなチャンス、きっともう訪れない。
「あ、あのっ」
「あの——」
私が口を開いたのとほとんど同時に、進藤さんも口を開いた。あまりに予想外のことに、一瞬頭が真っ白になる。
「あ……すみません、何でしょう?」
進藤さんの低い声が響く。閉館時間が近いからか、その声はいつもより大きい。
「い、いえ。あの、どうぞ、お先に仰ってください」
私が譲ると、彼は「すみません」と言って片方の手で頭を掻いた。そして、一つ咳払いをした。
「遠山ひなたさん」
「は、はい」
「あの……連絡先、交換してもらえませんか?」
やっぱり、あの夢は吉夢だったみたい。
今日こそは進藤さんに声をかけよう、と決めている。気合を入れて、今日のお弁当にはトンカツを詰めてきた。……昨夜の残りだけど。
午前中、ドキドキしながら待っていたものの進藤さんは姿を見せなかった。よく考えたら、彼は毎日図書館に来るわけではないのだ。勝手に今日だと意気込んでいたけど、彼にだって都合はある。
紗織さんとお昼ご飯を食べている間も、いつ進藤さんが来るかとソワソワしてばかりだった。
「どうしたの、ひなたちゃん。今日ちょっと上の空じゃない?」
さすが紗織さん。鋭いな……。
隠していても仕方ないので、正直に打ち明けることにした。
「そっかあ……! ついに決心したのね! わかった、まかせて。進藤さんが来たら合図するから。ほら、私午後から書棚の方周るから」
「合図って……。ど、どうやってですか?」
「こっそりライン送るわ」
「えっ、駄目ですよ勤務中に!」
「大丈夫、バレないようにやるから。私を誰だと思ってんの」
紗織さんならやりかねないな、と思い私は苦笑した。
午後五時五十五分。あと五分で閉館だ。書棚を周っていた紗織さんも、とっくにカウンター業務へ戻っていた。こっそりラインをするチャンスもなく、なんだか少し残念そうだった。
ウィン、と自動ドアが開く音がして顔を上げると、男性が慌てた素振りで入ってきた——進藤隼汰だ。閉館直前にやって来るなんて珍しい。
進藤さんは書棚へは向かわず、迷いなくこちら——私の座るカウンターまでやって来る。
「すみません、まだ間に合いますか」
そう言うと、数冊に重ねられた本をカウンターにドン、と置いた。
「あ、返却ですね。大丈夫ですよ、お預かりしますね」
進藤さんはホッとした顔を見せた。
返却された本を一冊ずつ確認していく。『マチュピチュ完全ガイド』『古代マヤ文明』『天空の王国と謎』『ハイラム・ビンガム号に乗って』の四冊。この時はマチュピチュ縛りだったんだな。
今しか無い。声をかけなきゃ。こんなチャンス、きっともう訪れない。
「あ、あのっ」
「あの——」
私が口を開いたのとほとんど同時に、進藤さんも口を開いた。あまりに予想外のことに、一瞬頭が真っ白になる。
「あ……すみません、何でしょう?」
進藤さんの低い声が響く。閉館時間が近いからか、その声はいつもより大きい。
「い、いえ。あの、どうぞ、お先に仰ってください」
私が譲ると、彼は「すみません」と言って片方の手で頭を掻いた。そして、一つ咳払いをした。
「遠山ひなたさん」
「は、はい」
「あの……連絡先、交換してもらえませんか?」
やっぱり、あの夢は吉夢だったみたい。