「大好き♡先輩、お疲れ様です♡」溺愛💕隣りのわんこ系男子!
第19話 「先輩、お疲れ様です♡」9
芽吹いた新緑が鮮やかで太陽の光は明るく風が清々しく、どこからか花の香りがする爽やかな五月です。
私は今、社員旅行で『箱根鎌倉満足温泉旅』に来てま〜す。
社員の投票で決まったのは候補の中では会社のある東京から一番近い観光地、――鎌倉と箱根を楽しむ旅。
「野坂先輩、沖縄じゃなくって残念でしたね。沖縄旅行は今度夏休みにでも僕と出掛けましょう?」
「一緒にって……城ヶ崎君」
箱根の観光地をあちこち巡って、今夜の宿はもちろん温泉付きの旅館です。
一泊二日で芦ノ湖に箱根神社や大涌谷、仙石原と美術館などをまわる盛りだくさんの旅になりそう。
うちの会社は食品関係なのであわよくば箱根や鎌倉で新しい流行や食材にも出会えたらと、慰安の社員旅行のわりにはみんな貪欲だったりする。
常盤社長は私たちに「自分自身を労《ねぎら》って仕事のことは忘れて楽しんでリフレッシュしてください」なんて言っていたけど。
「一緒に、ですよ? ダメですか? 野坂先輩」
「うーん……」
「茜音ちゃん困ってるじゃない? ふふっ、城ヶ崎くんったら積極的ねえ。今日は茜音ちゃんと城ヶ崎君は社員旅行を楽しんだら良いのよ」
隣りにいた今田主任の助け舟があって、城ヶ崎君がハッとした表情になった。
「そうですよね、せっかく先輩と旅行に来てるんだもんなあ」
「おいお〜い、城ヶ崎君。二人っきりじゃなくって私たち外野もいるけどね」
「みんなで楽しみましょうね」
城ヶ崎くんはにこっとさらっと言ったけど、その後こっそり私の耳に囁いた。
「もちろん先輩は僕の一番近くで楽しんでください」
「う、うん」
なぜか城ヶ崎君の甘いほんわか無垢なスマイルには弱い私、促されるままに「うん」と返事をしてしまう。
私たちは芦ノ湖で遊覧船に乗って船からの景色を楽しんだあと、箱根神社に向かってる。
城ヶ崎君からの甘い誘いにほいほい乗っかれば、後戻りが出来なさそうで困っちゃう。
こんなに一途に私を思ってくれるんだもん。……城ヶ崎君と付き合っても良いじゃないかなとも思う。
だけど、……だからこそ。
一緒にいて楽しい城ヶ崎君が、もしお付き合いして別れて私のそばからいなくなってしまったらと思うと切ない。
失敗することばかりやお別れを妄想してたら、いつまで経っても誰ともお付き合いして恋人が出来るわけないけれど。
でも私、自信なんてちっとも持てない。
いくら城ヶ崎君が褒めてくれても、好きだって言ってくれても。
「皆さん、良いですか〜? 箱根神社では自由行動で〜す。しおりにある集合時間までゆっくり観光してください」
遠くで和久井さんの声がしている。
ついこの前、ニューヨーク支店から本社に来たばかりなのに、もう周りと打ち解けて旅行の幹事のサポートもしてるとは、彼のコミュニティスキルに感心してしまう。
そういえば大学でも、サークルの賑やかな輪の中心に和久井さんはいた。
舜先輩はちょっと遠巻きにいて、だから私と舜先輩はよく話すようになったんだっけ。
不思議だよね。
あの時はこんな風に同じ会社で働くとは思いもしなかった。
しかも、舜先輩は社長だし、タケル先輩はニューヨーク支店の支店長だもの。
私だけがどうにも置いてきぼりなような気がしてる。
自分なりには頑張っているつもりでも。
私、もっと目標とか持ってみようかな。
仕事に活かせる資格とか、取りたい。野菜ソムリエとかもっと食について知識が深められるような。
「野坂先輩? どうしたの? 難しい顔してますよ」
「あっ、なんでもないよ〜。あれ? もう誰もいない」
「僕と先輩だけになってしまいました。ちょっと散策しましょうか? 疲れたらお休み処もあるみたいですよ」
私は城ヶ崎君のとなりでちょっとギクシャクしてしまう。
この間はランチタイムにお弁当交換をして、そこでキスされてしまった。
……二人だけでいるとね、もうキスするのって定番というかキスはオッケーですよって雰囲気になっちゃう。
それに今日は隣りを歩く城ヶ崎君は見慣れたスーツ姿ではなく、爽やかでセンスのいい私服を着てる。
二人でデートしてるみたいな錯覚を起こしそう。
城ヶ崎君ってピリッと締まるスーツ姿もキマるけど、私服も素敵だな。
ちょっとやっぱりときめいちゃう。
「手、繋いでも良いですか?」
「えっ? 城ヶ崎君、誰かに見られちゃうよ」
「良いじゃないですか。周りの人たちから見たら、僕は先輩の『ほぼカレシ』らしいですから。先輩とはぐれないように『ほぼカレシ』としては守りたいんですけど。……イヤだったら振りほどいてください」
そう言って城ヶ崎君が私の手に手を絡めてくる。
こ、こここ、これは――っ。
い、いわゆる恋人繋ぎってやつじゃないですか〜!
ポーッと頭から蒸気が吹き出しそうになる。
「先輩、いつにも増して可愛い」
「はっ? はい〜?」
「先輩にぴったりな色だ。よく似合ってますよ。そのワンピース」
「あ、ありがとう! その……城ヶ崎君も格好いいよ」
「ありがと、先輩。そういやこの前、先輩が泊まりに来てくれた時あったじゃないですか〜。服を買ってうちに置いとこうよって言ったの、覚えてる?」
「城ヶ崎君っ。そういう話はこういう所ではしないで」
誰かに聞かれたらどんな誤解を招くやら……、ヒヤヒヤしちゃう。
「別に大丈夫ですよ。会社の人間、周りに誰もいないし。俺たち朝まで抱き合ってキスしかしてないじゃないですか」
「じょ、城ヶ崎君っ!」
はははっと笑う城ヶ崎君は、ぜぇったいに私の反応を見て楽しんでるぅ。
「ところで先輩、この間の幕張のイベント会場の視察で常盤社長に口説かれたりしませんでしたか?」
「ふえっ!? な、なんで知ってるの?」
城ヶ崎君の情報収集力は脅威である。
移動は常盤社長の社用車で私と常盤社長と運転手さんしかいなかった。
帰りに御飯を食べて帰ろうと言われ、いったんはお断りしたものの……。
常盤社長からは「色んなお店の色んな味を知っておくのは良いことなんだよ」と仕事の一貫だって。
で、都内のお洒落でお高そうな、目の前の鉄板でシェフが焼いてくれるステーキのお店に連れて行かれたのですが……。
「やっぱり口説かれたんだ。大学ではキスされちゃった舜先輩ですもんね。僕より魅力ですよね」
「そんなことないよ。だってちゃんと舜先輩からのプロポーズはお断りしたもの」
「プッ、プロポーズぅ〜!?」
城ヶ崎君が崩れ落ちそうなリアクションをする。
ははは、そうなりますか。
舜先輩の影があって吸い込まれそうな瞳を思い出す。
ドキッとした。
胸が痛んだ。
甘やかなムードにもしなったとしても、きちんと断るつもりだったから。
あの寂しげな表情で迫られて、母性本能がほんのちょとだけくすぐられたとは口が裂けても城ヶ崎君には言えない。言えないよ〜。
いつもは自信満々な顔しか見せない舜先輩の見せた寂しげな横顔が、かまってあげたいとか抱きしめて慰めてあげたいとか思わせるだなんて。
危険、危険な男の人だ。
舜先輩に不必要には近づいちゃいけない気がする。
くらくらしたり、胸キュンしてグラッと来たのは城ヶ崎君だけだよ。
信じて? って私、城ヶ崎君の彼女でもなんでもないから、許すも許さないもそんなことおこがましい感情だよね。
「野坂先輩と僕って。まだ付き合えないんですか?」
可愛いわんこ系男子の城ヶ崎君がしょぼんとした。
あるはずのないケモノ耳と尻尾が元気なく垂れさがっているみたいに、まるで目の前に見えてきそうなぐらいに。
「うん、ごめんね」
「そうだよね、先輩はまだ男と付き合うのは怖いんですよね……。まあ、良いです。旅行中は僕といっぱい楽しみましょう。ねっ、先輩?」
「うんっ」
気づけば、うんって返事をしてしまっていました。
私がうんって言った時のね、城ヶ崎君の嬉しそうな笑顔はキラキラが弾けてる。
そんな反応を見たら私の悩みなんて吹き飛んでいきそう。
「箱根神社のすぐ隣りには九頭龍神社があるんですよ。恋愛の悩みや縁結びに強力な力を発揮してくださるらしいので、僕と野坂先輩にぴったりな気がしませんか?」
「そうなんだ。それはぜひお参りしとこうかな」
恋愛に臆病な私が吹き飛んでしまえばいいのに。
いっそもう恋なんてしないでいたら楽だとか思う。
いけないのに。
城ヶ崎君のこと――、気づけばけっこう好きになっていて。
だけど、意気地なしな私は恋愛も結婚もまだまだ考えられない。
一生独りは寂しいけれど、私……城ヶ崎君と真正面から向き合える勇気は全然出てこないんだ。
私は今、社員旅行で『箱根鎌倉満足温泉旅』に来てま〜す。
社員の投票で決まったのは候補の中では会社のある東京から一番近い観光地、――鎌倉と箱根を楽しむ旅。
「野坂先輩、沖縄じゃなくって残念でしたね。沖縄旅行は今度夏休みにでも僕と出掛けましょう?」
「一緒にって……城ヶ崎君」
箱根の観光地をあちこち巡って、今夜の宿はもちろん温泉付きの旅館です。
一泊二日で芦ノ湖に箱根神社や大涌谷、仙石原と美術館などをまわる盛りだくさんの旅になりそう。
うちの会社は食品関係なのであわよくば箱根や鎌倉で新しい流行や食材にも出会えたらと、慰安の社員旅行のわりにはみんな貪欲だったりする。
常盤社長は私たちに「自分自身を労《ねぎら》って仕事のことは忘れて楽しんでリフレッシュしてください」なんて言っていたけど。
「一緒に、ですよ? ダメですか? 野坂先輩」
「うーん……」
「茜音ちゃん困ってるじゃない? ふふっ、城ヶ崎くんったら積極的ねえ。今日は茜音ちゃんと城ヶ崎君は社員旅行を楽しんだら良いのよ」
隣りにいた今田主任の助け舟があって、城ヶ崎君がハッとした表情になった。
「そうですよね、せっかく先輩と旅行に来てるんだもんなあ」
「おいお〜い、城ヶ崎君。二人っきりじゃなくって私たち外野もいるけどね」
「みんなで楽しみましょうね」
城ヶ崎くんはにこっとさらっと言ったけど、その後こっそり私の耳に囁いた。
「もちろん先輩は僕の一番近くで楽しんでください」
「う、うん」
なぜか城ヶ崎君の甘いほんわか無垢なスマイルには弱い私、促されるままに「うん」と返事をしてしまう。
私たちは芦ノ湖で遊覧船に乗って船からの景色を楽しんだあと、箱根神社に向かってる。
城ヶ崎君からの甘い誘いにほいほい乗っかれば、後戻りが出来なさそうで困っちゃう。
こんなに一途に私を思ってくれるんだもん。……城ヶ崎君と付き合っても良いじゃないかなとも思う。
だけど、……だからこそ。
一緒にいて楽しい城ヶ崎君が、もしお付き合いして別れて私のそばからいなくなってしまったらと思うと切ない。
失敗することばかりやお別れを妄想してたら、いつまで経っても誰ともお付き合いして恋人が出来るわけないけれど。
でも私、自信なんてちっとも持てない。
いくら城ヶ崎君が褒めてくれても、好きだって言ってくれても。
「皆さん、良いですか〜? 箱根神社では自由行動で〜す。しおりにある集合時間までゆっくり観光してください」
遠くで和久井さんの声がしている。
ついこの前、ニューヨーク支店から本社に来たばかりなのに、もう周りと打ち解けて旅行の幹事のサポートもしてるとは、彼のコミュニティスキルに感心してしまう。
そういえば大学でも、サークルの賑やかな輪の中心に和久井さんはいた。
舜先輩はちょっと遠巻きにいて、だから私と舜先輩はよく話すようになったんだっけ。
不思議だよね。
あの時はこんな風に同じ会社で働くとは思いもしなかった。
しかも、舜先輩は社長だし、タケル先輩はニューヨーク支店の支店長だもの。
私だけがどうにも置いてきぼりなような気がしてる。
自分なりには頑張っているつもりでも。
私、もっと目標とか持ってみようかな。
仕事に活かせる資格とか、取りたい。野菜ソムリエとかもっと食について知識が深められるような。
「野坂先輩? どうしたの? 難しい顔してますよ」
「あっ、なんでもないよ〜。あれ? もう誰もいない」
「僕と先輩だけになってしまいました。ちょっと散策しましょうか? 疲れたらお休み処もあるみたいですよ」
私は城ヶ崎君のとなりでちょっとギクシャクしてしまう。
この間はランチタイムにお弁当交換をして、そこでキスされてしまった。
……二人だけでいるとね、もうキスするのって定番というかキスはオッケーですよって雰囲気になっちゃう。
それに今日は隣りを歩く城ヶ崎君は見慣れたスーツ姿ではなく、爽やかでセンスのいい私服を着てる。
二人でデートしてるみたいな錯覚を起こしそう。
城ヶ崎君ってピリッと締まるスーツ姿もキマるけど、私服も素敵だな。
ちょっとやっぱりときめいちゃう。
「手、繋いでも良いですか?」
「えっ? 城ヶ崎君、誰かに見られちゃうよ」
「良いじゃないですか。周りの人たちから見たら、僕は先輩の『ほぼカレシ』らしいですから。先輩とはぐれないように『ほぼカレシ』としては守りたいんですけど。……イヤだったら振りほどいてください」
そう言って城ヶ崎君が私の手に手を絡めてくる。
こ、こここ、これは――っ。
い、いわゆる恋人繋ぎってやつじゃないですか〜!
ポーッと頭から蒸気が吹き出しそうになる。
「先輩、いつにも増して可愛い」
「はっ? はい〜?」
「先輩にぴったりな色だ。よく似合ってますよ。そのワンピース」
「あ、ありがとう! その……城ヶ崎君も格好いいよ」
「ありがと、先輩。そういやこの前、先輩が泊まりに来てくれた時あったじゃないですか〜。服を買ってうちに置いとこうよって言ったの、覚えてる?」
「城ヶ崎君っ。そういう話はこういう所ではしないで」
誰かに聞かれたらどんな誤解を招くやら……、ヒヤヒヤしちゃう。
「別に大丈夫ですよ。会社の人間、周りに誰もいないし。俺たち朝まで抱き合ってキスしかしてないじゃないですか」
「じょ、城ヶ崎君っ!」
はははっと笑う城ヶ崎君は、ぜぇったいに私の反応を見て楽しんでるぅ。
「ところで先輩、この間の幕張のイベント会場の視察で常盤社長に口説かれたりしませんでしたか?」
「ふえっ!? な、なんで知ってるの?」
城ヶ崎君の情報収集力は脅威である。
移動は常盤社長の社用車で私と常盤社長と運転手さんしかいなかった。
帰りに御飯を食べて帰ろうと言われ、いったんはお断りしたものの……。
常盤社長からは「色んなお店の色んな味を知っておくのは良いことなんだよ」と仕事の一貫だって。
で、都内のお洒落でお高そうな、目の前の鉄板でシェフが焼いてくれるステーキのお店に連れて行かれたのですが……。
「やっぱり口説かれたんだ。大学ではキスされちゃった舜先輩ですもんね。僕より魅力ですよね」
「そんなことないよ。だってちゃんと舜先輩からのプロポーズはお断りしたもの」
「プッ、プロポーズぅ〜!?」
城ヶ崎君が崩れ落ちそうなリアクションをする。
ははは、そうなりますか。
舜先輩の影があって吸い込まれそうな瞳を思い出す。
ドキッとした。
胸が痛んだ。
甘やかなムードにもしなったとしても、きちんと断るつもりだったから。
あの寂しげな表情で迫られて、母性本能がほんのちょとだけくすぐられたとは口が裂けても城ヶ崎君には言えない。言えないよ〜。
いつもは自信満々な顔しか見せない舜先輩の見せた寂しげな横顔が、かまってあげたいとか抱きしめて慰めてあげたいとか思わせるだなんて。
危険、危険な男の人だ。
舜先輩に不必要には近づいちゃいけない気がする。
くらくらしたり、胸キュンしてグラッと来たのは城ヶ崎君だけだよ。
信じて? って私、城ヶ崎君の彼女でもなんでもないから、許すも許さないもそんなことおこがましい感情だよね。
「野坂先輩と僕って。まだ付き合えないんですか?」
可愛いわんこ系男子の城ヶ崎君がしょぼんとした。
あるはずのないケモノ耳と尻尾が元気なく垂れさがっているみたいに、まるで目の前に見えてきそうなぐらいに。
「うん、ごめんね」
「そうだよね、先輩はまだ男と付き合うのは怖いんですよね……。まあ、良いです。旅行中は僕といっぱい楽しみましょう。ねっ、先輩?」
「うんっ」
気づけば、うんって返事をしてしまっていました。
私がうんって言った時のね、城ヶ崎君の嬉しそうな笑顔はキラキラが弾けてる。
そんな反応を見たら私の悩みなんて吹き飛んでいきそう。
「箱根神社のすぐ隣りには九頭龍神社があるんですよ。恋愛の悩みや縁結びに強力な力を発揮してくださるらしいので、僕と野坂先輩にぴったりな気がしませんか?」
「そうなんだ。それはぜひお参りしとこうかな」
恋愛に臆病な私が吹き飛んでしまえばいいのに。
いっそもう恋なんてしないでいたら楽だとか思う。
いけないのに。
城ヶ崎君のこと――、気づけばけっこう好きになっていて。
だけど、意気地なしな私は恋愛も結婚もまだまだ考えられない。
一生独りは寂しいけれど、私……城ヶ崎君と真正面から向き合える勇気は全然出てこないんだ。