「大好き♡先輩、お疲れ様です♡」溺愛💕隣りのわんこ系男子!

第2話 「先輩、お疲れ様です♡」2

 会社の後輩クンが「お疲れ様です」と壁ドンをしてきた。
 後輩クンの名前は城ヶ崎君、童顔で可愛いわんこ系で人気者で気配り上手なの。

「二人っきりですね、先輩」
「きゃあっ、近い」

 い、いきなり!

 私と城ヶ崎君の二人の顔が近づいていく……。
 キ、キスとか駄目だよっ。
 ここは神聖な職場なんだからね。

 残業時間にオフィスには二人きり。

「なっ、なにっ?」
「お疲れ様です。コレ、先輩のために出張帰りに買ってきました。名古屋名物の天むす食べませんか?」
「えっ、あっ、はあ。……お疲れ様。ありがとう。でも何も壁ドンで迫らなくても」
「先輩! 僕の壁ドン、ドキドキしましたか?」
「ドキドキ? ドキドキしたけど」
「よしっ、先輩のドキドキいただきました〜!」
「もうっ、からかわないで〜」
「はははっ、からかっていませんよ。ところで僕の出張中に僕以外の誰かにドキドキしたりしてませんよね?」
「だ、誰もいないよ。そんな人」

 私は城ヶ崎君からするりと逃げて自分の席にスタスタと向かう。若干歩く動作はぎこちない。
 だって城ヶ崎君のじっと見てくる視線を背中に感じてる。
 とくとくんっと高鳴る胸は騒がしく、平常心ではいられない。
 こんなに心をかき乱されては仕事が手につかなくなりそう。
 朝イチ期限に提出する見積もり書類、果たして終電までに仕事が終わるだろうか。

「はい、どうぞ」
「ありがとう」

 戸惑いながらも城ヶ崎君から、天むすの入った紙袋を受け取る。
 にこぉっと笑う愛嬌のある顔は破壊力満点、癒やされ胸がときめく。

「あーんって可愛い口を開けてくれたら、僕が食べさせてあげますよ。そしたらパソコン打ちながら食べられるでしょう? 野坂先輩は書類作りに集中してください」
「きゃあっ。そんなん無理。無理です、結構です!」

 赤面ものですぞ、これは。
 断じてはっきり言いますが、私と城ヶ崎君は正式にお付き合いをしているわけではありません。
 ただの同僚、ただの仲間ですよ〜。
 単に同じ会社で同じ部署の先輩と後輩な関係です。

 後輩クン、……城ヶ崎君は私の隣りの椅子に座る。

 その時に見えた腕はこの前みたいにはワイシャツを捲くっていなかったが、城ヶ崎君はおもむろにネクタイを緩めワイシャツの第一ボタンを開ける。
 男らしい鎖骨と上下する喉仏が、私の疲れた目に否応なしに飛び込んできた。
 ……後輩クン、城ヶ崎君のチラ見せの鎖骨にドキッとさせられる。

 やだっ、私は疲れているの。癒やしを求めてるだけ。過剰に反応しちゃってるんだ、きっと。たぶん、そう。 

 あんな首元にしがみつきたいとか、抱き寄せられて頬を胸につけてみたいとか、甘えたいけど甘えてももらいたいだなんて考えちゃった。
 こんなふしだらな妄想を抱くのは、仕事がなかなか終わらないからよ。……夕方、定時の間際に上司に押し付けられた飛び込み業務が忙しいせいに決まってる。

 うーん。
 チラッ。また見ちゃう。

 同じ部署の後輩の城ヶ崎君……、この間からスキンシップとか甘いセリフで迫ってくるの。
 城ヶ崎君の鎖骨を見て胸がドキッとするなんて、私ってば恋したいモードだったかしら!?

 几帳面で真面目でくだけない性格の城ヶ崎君だったのに、あれから隙あらば私を口説いてくるようになってしまった。
 前カレに二股されてよく物思いに耽《ふけ》って落ち込んでた私は自分に自信が無くなってた。
 だけど、城ヶ崎君から好きだとか言われるようになって落ち込んでる暇がなくなったんだ。
 ……楽しいの、城ヶ崎君といる時間が。

「先輩、あ〜んってして」
「いやいやいや、大丈夫だから。自分で食べます。……いただきますっ」
「ま、待って。じゃあ、僕から。僕に食べさせて、先輩」
「は、はい〜っ!?」

 城ヶ崎君は目を閉じあ〜んって口を開けて、なんか可愛いっ。
 残業時間中のオフィスには私と城ヶ崎君の二人きりだけど、照れちゃう。
 変な甘い雰囲気になっています。

「あ、あ〜ん」
「あ〜ん。パクッ、……もぐもぐ。美味いっ。はい、先輩も。あ〜んっ!」
「えっ。ああ、あ〜ん」

 恥ずかしいけど、城ヶ崎君に誘導尋問みたいに上手いこと促されて、素直に私もあーんとかって口を開けちゃって……。

「どう? 先輩、美味しい?」
「うん、おいひぃです」

 口の中いっぱいに頬張っちゃった天むす、海老天とタレの甘じょっぱい味に海苔と御飯の旨味が広がる。

「口の端に米粒ついてますよ」
「やだっ、どこ? 恥ずかしい」
「ここです、ここ」

 うわあっ、お米の粒をつけて、後輩に指摘されるだなんて。
 やだっ、恥ずかしい。

「嘘です、付いてませんよ」
「えっ、からかった……だけ?」
「ふふっ。可愛いからです。ズルいですよ、先輩の存在がこんなに僕の気持ちをいっぱいにする。……先輩が可愛いから。慌てた先輩が可愛すぎて意地悪したくなる」

 私「可愛い、可愛い」ってそんなに何度も城ヶ崎君に言われたら、そわそわ落ち着かなくなってきてしまいます。

 城ヶ崎君の顔が私にもっと近づいてくる。唇が唇に触れてしまいそうなぐらい。

「キス、しても良いですか? 野坂先輩」
「い、良いわけな……い」
「先輩、隙ありっ」

 そう言って城ヶ崎君は私のほっぺにチュッて口づけた。

「きゃあっ」
「御馳走さまです」

 城ヶ崎君はにこぉって笑う。
 私は顔が熱くなって城ヶ崎君の唇が当たったほっぺも熱い。
 赤くなった顔を知られたくなくて恥ずかしくて、手で隠すように自分の頬を包む。

「顔、隠さないでください。野坂先輩の可愛い顔が見たいから」
「ふぇっ……」
「……僕によく見せて、先輩」

 ちょっ、急に城ヶ崎君が真剣モードで迫ってくる。凛々しく見えた。
 さらにっ……。
 グイグイ来るんですけど!

「ま、待って。近いからっ! そうだ、城ヶ崎君は残業する仕事無いんだよね? 私に付き合ってると遅くなっちゃうから。城ヶ崎君、もう帰って良いよ」
「そうはいきません。確かに僕は先輩会いたさに出張帰りに寄っただけですが。仕事、手伝いますよ」

 城ヶ崎君は私のデスクから資料を持っていく。残りの天むすを食べながらキリッとした仕事の顔つきになる。
 それから私の顔を覗き込んできた。

「先輩、人が良いからまた部長に面倒くさい仕事押しつけられたんでしょう?」
「私、仕事に面倒くさいとか言わないようにしてるから」
「ああ、そういうとこ。不器用で真っ直ぐで先輩のそういう一生懸命なところが僕は好きなんです」
「……えっ。あっありがとう」

 城ヶ崎君は腕捲くりをしてパソコンに向かう。
 腕捲くりした〜。わあ、逞しい腕で抱かれたい……。

 ――いやいやいやいや。
 なんていう恥ずかしい妄想空想っ!

 何故だろう。なぜ城ヶ崎君を見ていると、破廉恥ではしたない想像をしてまうの、私は。

 私はどうも城ヶ崎君の腕捲くりをした姿に見惚れてしまうらしい。
 目が釘付けだ。いかん、いかん。
 仕事をせねば、私!

「二人でやったら早くすみますよ。そしたら一杯飲みに行きましょう」
「えっ、えっ、明日も仕事だ……し。私お酒は普段あまり飲まないの。接待とか商談とか社内行事の時はちょっと嗜む程度に付き合うけれど」
「ああ、まあ実は口実です。きっかけ。早く仕事モードからオフになって、僕が先輩とイチャイチャしたいだけですから」

 も〜。照れちゃう言葉ばかり並べられたら私、どうしたら良いか分からなくなる。

「これから僕、一時間ほど集中します」

 城ヶ崎君、すごい気迫。私もやる気が出てくる。
 真剣な城ヶ崎君、迫ってくる甘々な城ヶ崎君……。
 正反対な表情《かお》……。

 ――きゅううんっ。
 胸の甘い疼き? これはいわゆる、ギャップ萌えなの?
 さっきまでと今の態度に差がありすぎやしませんか?

 私の心臓がうるさいの。胸脈打つ鼓動が早い。

「ところで野坂先輩」
「んっ? なあに、城ヶ崎君?」
「野坂先輩、中山さんから復縁を持ちかけられましたよね?」
「うっ……。なんで知ってるの」

 ちょっと意地悪な笑顔から怖いぐらいの城ヶ崎君の横顔にドキリッとする。
 城ヶ崎君のいつもの柔らかい印象はなくなる。

「野坂先輩には僕だけですよ。僕にも先輩だけだ。二股野郎と元サヤだなんて先輩が不幸になるだけ。目に見えているから」
「ええっ。そ、そんな事を言われましても……。だって」
「僕はずっと前から野坂先輩が好きです。悲しみで流す涙なんて見たくないから」

 ドキドキドキン……。真っ直ぐな瞳が向けられて一途な思いを告げられて。
 こんなシチュエーションでの甘いときめき、どうしたら良いの?

「と、とりあえず仕事しよ〜! 仕事。手伝ってくれてありがとう」
「いえいえ。先輩にはいつもお世話になっていますし。好きな人の手伝いなら気合が余計に入るってもんですよ。早く終わらせてイチャイチャしましょうね、先輩」
「そ、そういうの。そういう甘いの言われると仕事が手につかなくな……る?」
「――隙ありっ」

 初めて、城ヶ崎君にキスされた。
 く、唇にっ!
 残業中、わんこ系後輩男子に、唇奪われて放心しちゃう私。

「先輩は僕だけ見てて。よそ見禁止だからね」
「あ、あわわわわっ」

 ……私、城ヶ崎君を。
 どんどん好き、に……なってる〜?
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