「大好き♡先輩、お疲れ様です♡」溺愛💕隣りのわんこ系男子!

最終話 「先輩、お疲れ様です♡」14

 信じられない。

 ちょっと前の中山君と別れたばかりの頃の私なら、城ヶ崎君とお付き合いすることなんて考えられなかったよね。

 チラッと、私の隣りに座る城ヶ崎君の横顔を見る。
 城ヶ崎君を見つめ、彼に見つめ返される。

 私は城ヶ崎君を見ていると胸の中に好きがほわわ〜っと広がる、あったかいものが満たしていく。

 とくん……と胸が音を立てる。
 城ヶ崎君に優しい視線を向けられて、視線を外せない。

 ……恥ずかしいな。
 頬に城ヶ崎君の大きくて温かい手が触れる。
 眼差しが真剣になっていく城ヶ崎君に見られてドキドキする。

「……」
「……」

 沈黙が甘い雰囲気を醸し出す。
 恋人同士って喋らなくても伝わることがあるんだ。

 今は、城ヶ崎君から好きだって気持ちが感じられて嬉しい。

 見つめ合うとやがてじわっと心の中が熱をおびてくる。焦げてしまいそう。

 私ね、頬が熱い。
 私の想像を超えて上回る、幸せな気持ち。

「野坂先輩……」
「はい」
「茜音さん」
「なあに? 城ヶ崎君」

 真剣な面持ちの城ヶ崎君の熱い視線にとらわれて、私は動けない。

「僕と結婚しましょう! 茜音さんっ!」
「はっ、はい――っ!?」


     🌼


 箱根と鎌倉を巡る社員旅行から帰って来た翌週、私は城ヶ崎君とデートをしています。

 二人で遊園地とか映画も行きたいって言ってたけど、ベイブリッジと海が見えるショッピングモールで軽くお店を回って楽しんでランチをする。
 パン屋さんがプロデュースしているグラタンとサンドウィッチが美味しいお店です。
 私と城ヶ崎君は海老グラタンとチキンチーズグラタンを頼んで仲良く分ける。

「城ヶ崎君、昨日の社内運動会大活躍だったね。すっごくカッコ良かった! 3点シュート対決で一位だったもんね」
「ありがとう。……久々に燃えました。野坂先輩にいいとこ見せたくって。実は暇な時間見つけて練習してたんです」
「わあっ、そうなんだね。城ヶ崎君は偉いなあ」
「……そんなことないです。バスケ嫌いになってませんでした」
「良かったね。城ヶ崎君、私にも今度シュートのコツ教えて」
「良いですよ。二人でラウンドワンにでも行きましょうか」
「うん、楽しみ」

 運動が苦手でもわりと球技は好きだから楽しみ。
 なによりバスケのシュートを決める城ヶ崎君は楽しそうだった。

「ところで先輩、優勝商品は遊園地パークチケットと宿泊券だったのに本当に香月《こうげつ》のやつにあげちゃって良かったの?」
「だって新婚さんじゃない。あんなに欲しいってお願いしてたし。香月君って城ヶ崎君の恋愛相談乗ってくれてたんでしょ? 感謝しないと」
「まあそうなんですけど」
「私は城ヶ崎君とこうしてデート出来てるから良いんだ」
「茜音さん……」

 まだ恋人同士に慣れてない。
 城ヶ崎君と二人でいるとドキドキがおさまらないの。

 私は気恥ずかしくてグラタンばかり見ていた。
 ちゃんと顔をあげて見ると城ヶ崎君のキラキラしてる目が私を見ている。

「茜音さんさ、このあとうちに来ない?」
「城ヶ崎君ん家《ち》に?」
「うん。茜音さんと二人きりになりたい」

 城ヶ崎君はなんだかそわそわしてる。



 城ヶ崎君のお家《うち》でゆっくりすることになった。

 なぜなら――。
 城ヶ崎君は大切な話があるらしく……。
 私からも言いたいこととかあって。胸の内をきちんと話しておきたいというか……。

 二人でソファに座ると意を決したような瞳で城ヶ崎君が見つめてきた。

「野坂先輩……」
「はい」
「茜音さん」
「なあに? 城ヶ崎君」

 城ヶ崎君のこの瞳に見つめられるとドキドキしちゃう。
 私、身動きが出来ない。
 私と城ヶ崎君を甘い雰囲気が包みこむ。
 たぶん数秒の沈黙、見つめ合う二人……。
 城ヶ崎君の瞳ってきらきらしてる。
 きれいだな。

「僕と結婚しましょう! 茜音さんっ!」
「はっ、はい――っ!?」

 け、結婚〜!
 そそそれは城ヶ崎君、いきなりですが……。

「いっそのこと結婚しちゃえばいいんです!」
「そ、そ、そんな……、結婚って勢いが大事とか言うけれど……。あの、その〜、城ヶ崎君とは付き合ったばかりだし、まだお互い色々知らないことだらけだと思うし」

 城ヶ崎君にがっしりと両手を握られた。
 真っ直ぐな瞳が私を見つめている。
 その向けられた眼差しを受けて、つい私は目が泳いでしまった。
 私に迷い? があるから?

 城ヶ崎君にプロポーズされて、私はどう答えるのが良いのかちょっとパニックになってる。

 だって城ヶ崎君は本気なのかな?
 結婚したいって言われて嬉しいよ。
 だけどね、良いのかな?

 私は気づいたの。戸惑うとかではなく、転勤することになったから焦りとか目先の問題や勢いだけで決めて良いのかと……。
 城ヶ崎君は後悔しない?
 私と結婚って……良いの?

 結婚って家族になって一生連れ添って過ごすんだよ。 
 一生の相手に私を選んで、大好きになってしまった城ヶ崎君に違うとか思われたら私、立ち直れない。

 いけない私――、ネガティブ全開だ。どんどん沼にはまっていく。

 せっかく城ヶ崎君とお付き合いしたてでラブラブな雰囲気なのに、自信がなくなると気分が暗くなってしまいそう。

 きっかけがどうであれ、私の方は城ヶ崎君と結婚したらとびっきり嬉しいと思えるだろうけれど、城ヶ崎君は良いのかな。
 本当に?
 こんなんじゃなかったって後悔しないかな。
 私に失望したとか中山君のようにがっかりされたらと臆病な気持ちがまた出て来る。

「付き合った時間は重要じゃないと思います。色々知らないことばかりなら、結婚しても知れるでしょ? 先輩の意外な一面を見れるとか楽しみだし。だいたい僕は先輩のことが好きな気持ちは何があっても変わらないよ? 僕がニューヨークで先輩が九州に行って離れ離れになったら、僕は先輩のことが心配で心配でたまらなくなる。野坂先輩は違う人を好きになっちゃうかもしれない」
「うーん、私……城ヶ崎君のことが好きだから大丈夫だよ。私だってね、城ヶ崎君と離れるのは寂しいけど。あっ、あのね。いきなり結婚っていうのがちょっと私の心の準備が……」
「ダメですか? だって茜音さんは可愛いからっ! 常盤社長とか転勤先の博多支店の奴らとかに誘惑されちゃうんですよ? きっと」
「そんなことないと思うけどな」
「あります! 断言しますっ! だいたいこの転勤だって常盤社長に仕組まれたんだ〜」

 城ヶ崎君は一気に捲し立てて泣き真似をする。
 うーん、どうしよう。
 ……可愛い。
 そんな城ヶ崎君が可愛いとか、子犬みたいで弟みたいで。
 私って、男の人に甘えたいのに甘えてももらいたいんだって、今更ながら改めて自覚する。

「よしよし」
「ううっ、先輩〜」

 城ヶ崎君が抱き着いてきたから、頭をぽんぽんして慰めてあげる。

「あーっ、もぉ。先輩ってば子供扱いして。嬉しいけど……。分かった! 僕、会社辞めます、辞めてやる〜」
「ふふっ。城ヶ崎君は会社辞めるとか極端だなあ」
「も〜っ、笑い事じゃあないんです、茜音さん。僕にとっては一大事なんです。いいや二人にとってですよ? 分かってますか? ことの重大性が。ああもぉっ、僕は野坂先輩のそばで違う仕事探す。一緒に暮らそう? 仕事を探して軌道に乗ったら結婚してくれますか? 先輩」
「待って待って、転職はなし。会社に他に不満は無いんでしょう? ようやく仕事を覚えてこなせるようになってきたのにもったいないよ。よっぽどの理由があれば辞めた方が良いけれど」
「ううっ……。だって」

 城ヶ崎君と付き合えることになったのは嬉しいんだけど……。
 すぐに離れ離れになるとは思わなかった。

「僕、常盤社長に掛け合ってみます」
「ううん。……二人で乗り越えよう」
「えっ? 茜音さん」
「部長の言うようにね、うちってそれなりに経験を重ねると転勤とかの話が出てくるのは仕方ないもの。見方を変えれば能力を認められてきたってことだし、城ヶ崎君にも私にも自分を試すチャンスだと思うよ」
「僕と離れることになって茜音さんは寂しくないの?」
「寂しいよ、当たり前じゃない」
「……茜音さんっ」

 城ヶ崎君がぎゅうっと抱きしめてくる。
 切ない、切ないです。
 とっても。

「こんなに大好きになっちゃったんだもん。……私だって離れたくないよ」
「茜音さん、ごめんね。僕ばっかり気持ちをぶつけちゃった」

 抱きしめられた城ヶ崎君の胸に顔をうずめて、私は込み上げてきそうな泣き声を抑える。

 ――好き、と。
 寂しい――、が溢れそう。


「茜音さん、僕と婚約しない?」
「えっ?」
「いきなりの結婚が不安なら……。僕は茜音さんと正式に婚約したい」
「城ヶ崎君と婚約……」
「僕がニューヨークから帰って来たら結婚するってことでどうかな?」

 こんなに好きな人にはもう出会えないと思う。

 なにより城ヶ崎君だから好きで。
 私――。
 私は、横にいてくれる人は城ヶ崎君が良いんだ。

「うん」
「やったあ! ほんと? 本当に良いの茜音さん」
「うん。不束者ですがよろしくお願いします」
「プッ……。不束者ですがって、僕の方が不束者ですよ」

 両の頬を両手で包まれて口づけされちゃった。

「茜音さんは僕の婚約者だ〜」
「こ、婚約者?」
「そうですよ? もう婚約者ですからね。フラフラと他の男に騙されないようにしてくださいね、茜音さん」
「あっ、ははは……。婚約者かあ、なんか照れちゃうね」
「照れますね。あっ、そうだ! 指輪とか親族の顔合わせとかいつにしますか?」
「ちょ、ちょっと待って城ヶ崎君。……ゆっくり幸せをいったん噛みしめていい?」
「えっ? あれこれいっぺんに言い過ぎました?」
「うん……。あの、先に渡しておくね」
「んっ?」
「一日早いけど……城ヶ崎君お誕生日おめでとう」 
「えっ、えっ? 茜音さん?」

 私は悩みに悩み抜いた誕生日プレゼントを渡す。
 細長いプレゼントBOXにはちょっと良い万年筆が入っている。
 銀座にある有名な文房具店で、万年筆を使い慣れていない人にも書きやすいものを店員さんに相談して選んできたの。

「明日、お誕生日でしょ?」
「ああっ! ありがとう! すっげえ嬉しいよ茜音さん! 僕、転勤の事ばっかり考えてて明日が自分の誕生日だって忘れてた」
「そっかあ。明日は私が外回りで直行直帰だから城ヶ崎君と会えないと思うから。早く渡したかったんだよね」
「ありがとう! 開けていい?」
「うん」

 城ヶ崎君がリボンを解《ほど》いて包装紙を丁寧に開いていく。
 男の人にプレゼントするって緊張する。
 喜んでもらえるかドキドキです。

「あっ、万年筆だ。へぇ〜、かっこいい!」
「城ヶ崎君ってまだ万年筆使ってるのを見たことが無かったから。持ってないのかな〜って」
「初ですっ。ありがとうっ♡野坂先輩!」

「茜音さん。僕さ、前に誕生日には『――朝まで添い寝と先輩からのキスで良い』って言ったけどそれ以上を求めても良いのかな?」
「そ、そ、それ以上って……」
「その〜、婚約者に格上げしてもらったし。今夜これから茜音さんを襲っても良い?」
「きゃっ! ……良いわけないです」

 急に抱きしめられてバランスが崩れて、二人で床のクッションの上に転がってしまった。
 ――これってもしや?
 予想外の……、ゆ、床ドンされてる!?

 城ヶ崎君と重なるように密着した体が熱い。

「茜音さんが可愛すぎて好きすぎて。……もう僕、我慢できないんだ」
「きゃあっ」

 耳元に口づけされて吐息混じりに囁かれてくすぐったい。

「だ、だめ。心の準備が……」
「……プッ、はははっ。しませんよ、まだ」
「か、からかったの? 城ヶ崎君」
「ふふっ、たしかにからかったかも。先輩はキスの他にもしたい?」
「いいです、しないです」
「茜音さんがしたいなら我慢しない。でもまだしたくないなら、僕は先輩を襲わない」
「城ヶ崎君」
「だって先輩、僕のことめったに悠太って呼ばないから。ちょっと距離を感じて寂しい」
「城ヶ崎君、呼んで欲しいんだ」
「そりゃあもちろん。名前で呼ばれたら嬉しいですよ。時々より毎日呼んで欲しいです。なんてね、僕もまだ先輩って呼んじゃうけど。二人きりの時は茜音さんって呼ぶように気をつけます」
「べつに混ぜこぜでもいいよ、まだ。私ね、城ヶ崎君に……悠太君に野坂先輩って呼ばれるの好きだから」

 恥ずかしくて城ヶ崎君の顔がまともに見られない。

「わあっ、ほんとですか! ……照れてる先輩、可愛いっ」

 抱きつかれて、私は心地よさに目を閉じた。

「二人で床に転がって抱き合ってるとか。なんだかちょっとエロくないですか?」
「……じょ、城ヶ崎君そういうの恥ずかしいから口に出すのやめて」
「なんで? 結婚したらHするでしょう?」
「大人な感じで迫ってくるのはちょっと。……うーん、城ヶ崎君にはね〜、なんか似合わない」
「なんですか、それ。僕だってね、男なんですよ? いつだって可愛い先輩をこの腕の中に抱きしめたいなあとか思ってるんですから」
「なんか似合わないのっ。エロいだのHだの城ヶ崎君の口から聞きたくない」
「イメージと違かった? 僕、先輩にしか言いませんよ」
「そうっ、イメージと違うからっ。城ヶ崎君は清廉潔白で純朴な王子様でいて」
「ふふっ、先輩は純粋だなあ」
「だって私。……男の人と経験ないから」
「はっ? はい――? 先輩、だって中山さんと付き合ってましたよね?」
「付き合ってたけど拒んでたから」
「えっ、えーっとあの〜。中山さんとキスはしたんですよね?」
「うん」
「その先の大人な領域にはまだ進んでいなかったってことですか?」
「うん。だって中山君、初めて迫ってくる時強引で怖かったから。……夜はあんまりデートしなかったの」

 城ヶ崎君が天井を仰いでる。
 目を覆ってる?

「城ヶ崎君……呆れちゃった? それともこの年で経験のない女子は重たいよね……」
「違いますっ。呆れもしませんっ、重たくも思っていません。わ〜っ、むしろ嬉しいんですけど。くう〜っ、ニヤけてきた〜。気が許せるから僕を選んでくれたってことでしょ?」
「う、うん」
「先輩のこと大事にします。ますます大切にしなきゃって思ってます」

 ぎゅむって抱きしめられて、私は泣きそうになった。
 最大の秘密を喋ってしまった。
 中山君はあちらこちらに私とのあれこれを吹聴して回ってるみたいだけど、実際は付き合ってたって言ってもそんなに深い関係にはなれなかった。
 私はゆっくりじっくりが良かった。
 浮気されても仕方なかったとは思わないけど、中山君とは恋人として進むペースも価値観も合わなかったんだ。

 だから余計に城ヶ崎君の優しさや無理矢理関係を進めようとしないところに安心するのかもしれない。

 城ヶ崎君が私にくれたものはたくさんあって。

 城ヶ崎くんってあったかい。
 心も、体も。

 自信を取り戻そうといっぱい私を元気づけて勇気づけてくれる。


 私と城ヶ崎君のあいだには結婚までにもきっと色々起こるのだろう。
 結婚してからだってたくさん困難とかあるかもしれない。
 だけど、城ヶ崎君となら大丈夫って気がするの。

 根拠はないけど、城ヶ崎君とならきっと……。


      ✈️


 今日は城ヶ崎君がニューヨークに出発する日です。
 城ヶ崎君のご家族とうちの家族で羽田空港まで見送りに来ました。

「兄貴、行ってらっしゃい」

 正式に婚約した私と城ヶ崎君以上に、ラブラブイチャイチャなカップルがここに一組います。
 ニコニコ微笑み合って腕なんか組んじゃってる二人は――。

「……なんでいつの間にか茜音さんの妹と付き合ってんだよ、流星」
「俺、杏奈とは同級生だもん。杏奈のことは前から好きだったし、親族顔合わせで再会して運命感じちゃったからさ」

 ――そうなんです。
 うちの妹の杏奈と城ヶ崎君の弟の流星君って同級生なんだよね。
 私と城ヶ崎君が同じ小学校に同じ中学校出身だから、充分にその可能性はあったわけだけど。

「兄貴も初恋でファーストキスの相手と結婚とかロマンチックだよな〜」
「りゅ、流星。目立つからロビーであんまりでかい声を出すなよ」
「でもお姉ちゃんに言わないとか、お父さんたちも気を使い過ぎだよね」
「小さい子供とはいえ、兄貴の方から一方的に茜音さんの大事な初チュー奪ったんだから内緒にしときたかったんじゃないの?」

 なんと実は私、ファーストキスの相手が城ヶ崎君だったんです。
 ……驚きました。

 まあ、幼稚園生の時のことで二人してまったく覚えていなかった!
 ……その決定的な写真がこっそり残っていたのです。
 幼稚園のクリスマス会でたまたま撮れていた写真が……。

 お父さん、その写真をずっと隠してたんだよ。亡くなったお母さんはそんなお父さんを笑ってたらしいけど。

 お互いの親同士はそのことをしっかり覚えてたという気恥ずかしさ。
 私に申し訳なくて言ってなかったらしいけど……。
 城ヶ崎君が入院した時にご家族に会ったのが初対面かと思っていたけど、そうじゃなかった。


 あれ……?
 心なしかお父さんがシュンとして元気がないような……。

「お父さん……一気に娘が離れていくから寂しいよね」
「お姉ちゃんはさ、過保護すぎ。お父さんだってまだまだ再婚とかするかもよ?」
「お父さんが再婚っ?」
「大丈夫です、お義姉さん。お義父さんのことはご心配なく。俺に任せてください。いずれは杏奈と結婚して二世代住宅とかでも俺は全然オッケーなんで」
「や、やだ〜流星。私たちまだ結婚とか早いから」

 杏奈と流星君が盛り上がっているなか、うちのお父さんに城ヶ崎君が近づく。

「……お義父さん。茜音さんをちょっとお借りして良いですか?」
「ああ、悠太君。かまわないよ」

 城ヶ崎君がうちのお父さんに向かって『お義父さん』、か〜。うちのお父さんも城ヶ崎君に『悠太君』とか呼んでる……、感慨深いというか不思議な気持ちだなあ。


 まだフライトの搭乗時刻まで時間がある。
 二家族はお茶をしに行ってしまった。

「茜音さん、ちょっと来て」

 私は城ヶ崎君に手を握られて歩く。
 ぎゅっと掴まれ握られた手が熱く感じる。
 繋がれた手に城ヶ崎君からの好きが流れ込んでくるみたい。

「先輩、お疲れ様です♡」
「えっ……」

 人の通りの少ない自動販売機の影で城ヶ崎君が抱きしめてきて、それから……。
 きゃあっ……。
 城ヶ崎君はいつかみたいに壁ドンしてきた。

「茜音さん、大好きだよ」

 それから――。
 私の手を恭《うやうや》しくとって、左手の薬指に指輪をはめた。

「これって婚約指輪……?」
「時間がなかったから勝手に選んでごめん。茜音さんの誕生石にしたけど気に入らなかったら僕が帰国してから二人で選ぼう?」
「ううん……嬉しい。私には充分だよ、ありがとうっ」

 背の高い城ヶ崎君に飛びつくように私は抱きついた。
 城ヶ崎君は私を包み込むようにしっかり抱きとめてくれる。

「茜音さん、我慢しないで連絡ちょうだいね」
「うんっ、城ヶ崎君もね」
「うん。いつの時間でだって茜音さんからの電話なら迷惑になんてならないから」
「ありがとう、電話とかメールもするね」

 城ヶ崎君の顔がゆっくりと近づいてくる。
 ドキドキ、……ドキドキする。
 いつだって城ヶ崎君のこの瞳に見つめられると――、胸が喜びと好きで高鳴って仕方がないの。

「好きだ、野坂先輩……」
「城ヶ崎君」

 城ヶ崎君と私はキスをした。
 しばらくは離れてしまう前に二人で心を込めた長い長い口づけを交わした。



       了


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