「大好き♡先輩、お疲れ様です♡」溺愛💕隣りのわんこ系男子!
第3話 「先輩、お疲れ様です♡」3
「お疲れ様で〜す。ただいま戻りました」
この声は紛れもなく、あの後輩クン。
「やったあ。二人っきりですね、せ・ん・ぱ・い」
会社で人気の後輩男子が、椅子に座る私にバックハグをしてきた!
「きゃあっ、近い! や、やめて」
「ダメですか? 先輩に拒絶されて僕は傷つきました」
「……城ヶ崎君。そんなシュンとされても。私の方が困っちゃうよ」
後輩クンの名前は城ヶ崎君、人懐っこい可愛いわんこ系です。
城ヶ崎君は、童顔で人気者で気配り上手なの。
「僕たちキスした仲じゃないですか」
「あ、あれは君が勝手に……」
「もしかして、イヤでしたか?」
「……あ、えーっと」
城ヶ崎君がうなだれてしょんぼりしてる。
ううっ、なんか母性本能をくすぐられてしまう。
「い、イヤじゃなかったけど」
私がそう言うと、城ヶ崎君の顔がパアッと明るく輝く。
「良かったぁ。で、僕はいつになったら野坂先輩とカレカノになれるんですか? そうだ! もう野坂先輩は僕の彼女ってことで良いですよね」
「か、勝手に私を城ヶ崎君の彼女にしないで〜」
「あ〜あ。どうしたら付き合ってくれるんですか。先輩は強情ですね」
い、いきなり!
椅子をくるりと城ヶ崎君の方に回されて、ゆっくり城ヶ崎君の顔が私に近づいてくる……。
今にも城ヶ崎君の唇が私の唇に触れちゃいそうだよ。
ドキドキ、――ドキン。
キスされちゃう?
「だ、駄目だよ、城ヶ崎君。ここは会社なんだから」
「ちぇっ、キスしたいです」
「……『ちぇっ』とか言われましても」
「う〜ん、会社でイケナイなら……。そうだ! 先輩。残ってる仕事、僕も手伝いますから終わったら僕んちに来ませんか?」
「――えっ?」
城ヶ崎君の顔が真剣で私の心は揺さぶられる。
あらぬ期待を抱いてしまいそう。
城ヶ崎君が私のこと、本気で好きだって勘違いしてしまうよ。
……私をからかってるんじゃないの?
「うちに来たら先輩に僕の手料理をご馳走しますよ」
「手料理かあ」
「先輩の食べたい物、僕が腕によりをかけて作りますよ」
残業時間にオフィスには二人きり。
午後七時半を過ぎた。
晩御飯はまだ食べていないので、たしかにお腹は減り減り。
でも城ヶ崎君のおうちにお邪魔するなんて、……緊張しちゃう。
「先輩は僕と付き合うの、何が駄目なんです?」
「だって社内恋愛って別れた時大変なんだもん」
「ぷっ、ははは。そんな理由ですか? 大丈夫です。僕と先輩なら付き合ったら別れませんよ〜。要は仲良く上手くいけば良いんです」
「……そんな単純に上手くいけば良いけどね。初めは盛り上がってるし、そう思うんだよね」
「大丈夫ですって。僕は先輩のことが大好きですっ。それに僕と付き合うとなにかとお得ですよぉ。毎日手作り弁当を持ってくるし、朝は迎えに行きます。帰りは責任持って家まで送ります! 僕が先輩の彼氏になったら毎日先輩をドキドキさせて甘々に溶かしちゃいます。溺愛しますっ」
「い、いいよ、そんな手作りのお弁当とか送り迎えとか」
「先輩……。好きです」
城ヶ崎君が私の両手を握ると潤んだ瞳を向けてくる。
「どうして僕のこの熱い思いが先輩に伝わらないんですか? 僕はこんなに真剣なのに。僕のことがキライですか?」
「……キライじゃないけど」
いやむしろ、実は好きです。
最近はよく話すし城ヶ崎君って優しいし、それになにかとスキンシップされてドキドキしちゃう。
――好きだと思う。
だけど付き合って別れたら?
城ヶ崎君が浮気したら?
別れれば、またあんな失恋の悲しい思いを惨めな思いをしなくちゃならない。
「ところで僕が外回り中に、僕以外の誰かに胸キュンしたり告白されたりしてませんよね?」
「ま、まさかあ」
私は城ヶ崎君からするりと慌てて逃げて、珈琲を淹れに行く。若干歩く動作はぎこちなくなってしまう。
だって城ヶ崎君が私をじっと見つめてきてる。
熱い視線を私は感じてしまう。
早鐘のように胸は騒がしくて、穏やかな気持ちではいられない。
城ヶ崎君にこんなに心を嵐みたいに吹き荒らされては、なんにも手につかなくなりそう。
朝イチの締め切りに提出する納品書の書類、果たして何時に仕事が終わるだろ。
城ヶ崎君に珈琲を渡すと無邪気な笑顔でにかあっと笑ってくる。
天使か子供みたいだ。
癒やされる〜。
「はい、どうぞ」
「先輩、ありがとう。嬉しいな」
城ヶ崎君はフウフウしてから一口二口飲んで笑う。
「先輩が淹れてくれる珈琲はめちゃくちゃ美味いですっ」
「ありがとう。そんな風に褒めてもらえると嬉しいな。城ヶ崎君は猫舌でしょう? 城ヶ崎君に合わせて火傷しないようにね、沸騰させたお湯を少ぉし冷まして気持ち温《ぬる》めで淹れたからかな」
「先輩……、僕が猫舌って知ってたんだ」
「ふふっ。知ってるよ〜」
「……嬉しいや」
城ヶ崎君の愛嬌のある笑顔は破壊力満点だ。私の胸がいつでもときめきで満たされる。
「ところで野坂先輩、昼休みに営業部三課の八神課長に告白されました?」
「ええっ? ど、どうして城ヶ崎君が知ってるの?」
私はしどろもどろに答えてしまう。
「僕、職場にも友達が多いんです。先輩のことだと特に情報に敏感になっちゃうんだよなあ」
「城ヶ崎君……」
「可愛い先輩が僕以外のものになっちゃイヤだ」
甘い声、甘いセリフにぽ〜っとしてくる。
ど、どうしよう。
「大好きです」
「……城ヶ崎君」
私と城ヶ崎君はただの先輩後輩、同じ会社で同じ部署の同僚なのに。
「さあて、僕も全力で仕事手伝いますから。二人でちゃちゃっと済ませちゃいましょう」
「えぇっ。あ、いいよ。悪いから」
城ヶ崎君はおもむろにスーツの上着を脱いで椅子にかける。
ネクタイを緩めワイシャツの第一ボタンを開けてく。
男らしい鎖骨が見え、上下する喉仏は、城ヶ崎君を意識してる私の目に図らずも飛び込んできた。
「僕が手伝いたいんです。それに一秒だって長く先輩と一緒にいたいから」
「城ヶ崎君。なんで私のことなんか好きとか言ってくれるの?」
「なんかじゃありません。野坂先輩はすっごい素敵で魅力的で可愛いですっ」
……城ヶ崎君。
胸があたたかい。
顔が熱い。
「で、先輩は八神課長の告白にどう答えたんです? 返事はなんてしたの?」
「返事は……」
「八神課長とまさか付き合わないよね、先輩」
「返事はしてないの」
「なんで? もしや八神課長は結婚相手として好条件だから保留ですか?」
城ヶ崎君は腕捲くりをして、パソコンを起ち上げる。
目線は画面なのに、私に刺さるような城ヶ崎君の視線が気持ちが向かってきてる。
「僕よりも八神課長を選ぶんですか? あっちの方が大人で年上で課長だからなのか?」
「違う。……城ヶ崎君のイジワル。八神課長、私に告白するだけして返事も聞かずに営業に出ちゃったから」
「はあ、なんだあ。……断りますよね?」
「城ヶ崎君に言われなくてもそのつもり。好きでもなんでもないしね。あと、八神課長のこと、真剣に好きな子がいるのよ。私が奪う理由なんてないから」
「はあ〜っ。なんだあ、良かった」
いつの間にか張り詰めてしまってた雰囲気はなくなって、いつもの私と城ヶ崎君の感じになる。
「終わったらとりあえず抱きしめさせてください」
「私を抱きしめるの? 城ヶ崎君が?」
「駄目ですか?」
抱きしめられたい。
その意外と逞しい腕で。
城ヶ崎君の胸にうずもれて……って、やだっ、私は疲れているのっ。
癒やしが欲しいだけ。温もりが欲しいだけだ、きっと。たぶん、そう。
温もりをくれるなら城ヶ崎君じゃなくても、誰でも良いの。
ううん、やっぱり城ヶ崎君が良い。
今すぐ抱き寄せられて頬を胸につけて甘えてみたい。
けど城ヶ崎君を甘えさせてあげたいなとか考えちゃう。
こんな破廉恥な妄想が浮かぶのは、上司に押し付けられた仕事が忙しいせいに決まってる。
前カレの中山君が付き合い直そうってまだしつこいけど、流されずに毅然とした態度で断れるのは城ヶ崎君のおかげ。
城ヶ崎君に好きだって言われるたびに、私に自信をくれるから。
「先輩、チョコあげる。甘い物は疲れがとれますよ。あ〜んってして」
「あっ、ありがとう。自分で食べます。いただきますっ」
私が城ヶ崎君から貰ったチョコを口に放り込むと……、チュッ!
城ヶ崎くんの不意打ちキスが私を襲う。
「先輩の唇、柔らかくて甘いです」
「……あわわわわっ」
「キスがチョコ味だ。美味しい」
いきなりでびっくりした。ドキドキして、私、倒れちゃいそう。
二人きりのオフィスには私と城ヶ崎君、甘〜い雰囲気になっています。
「今日こそは僕の告白に『うん』って言ってもらいますからね。覚悟してください」
キスされた唇が熱を帯びる。
「もう一回、キスしても良いですか? 野坂先輩」
「良いわけな〜い」
「もっと僕のやる気爆上がりすんのに」
そう言って城ヶ崎君は私の額にチュッて口づけた。
「きゃあっ」
「仕事が終わるまでは仕方がない。今はおでこで我慢します」
城ヶ崎君はにこにこ笑う。
いたずらなキュートな微笑みが、私の中にあたたかく流れ込む。
私は顔がますます熱くなって城ヶ崎君の唇が当たったおでこも熱い。
「今夜は何が食べたいですか? どこかで買い物も寄りましょう」
「あっ、うん」
「どうしたんです? 野坂先輩、照れた顔が可愛い。先輩はどんな顔も可愛いですけどね」
城ヶ崎君の砂糖マシマシな甘々なセリフが、グイグイ来るんですけど!
ほわーん、ぽわーっとしちゃう。
「そこでストップ、城ヶ崎君! セリフが恥ずかしすぎて仕事が手につかなくなっちゃうから」
「先輩は僕に酔えば良い。僕の言葉で仕事が手につかないだなんて僕は嬉しいから」
城ヶ崎君は私の顔を覗き込んできた。
「先輩は僕だけを見てて。僕だけをその瞳に映して欲しいんだ」
「で、でも仕事はきちんとやります」
「先輩のそういうとこが、さらに僕を好きに夢中にさせる」
今すぐ好きって伝えたい。
ほんとは今すぐ抱きつきたい。
――いやいやいやいや。
駄目だ、だめ。
好きなんだ。
城ヶ崎君を見ていると私、胸があたたかい。
「早く仕事すませて先輩とイチャイチャしたい。何度も口説きますから。先輩を離したくない」
「城ヶ崎君」
も〜。照れちゃう言葉ばかり並べられたら私、どうしたら良いか分からなくなる。
陥落寸前、もうチョコみたいに蕩けそうだ。
「これから僕、集中して一気に書類やっつけちゃいますから」
城ヶ崎君、すごい真剣な目。
私も俄然やる気が出てくる。
城ヶ崎君、甘々で迫ってくる少年っぽさがある普段の彼。いつもとは正反対な表情《かお》してる。
――きゅううんっ。
胸のなか、甘い疼きが切なく鳴る。
「野坂先輩はモテるからなあ。僕もうかうかしてらんないって焦ります」
「……そんなモテないよ」
「自覚ないんですか? 野坂先輩らしいな。……先輩は僕だけ見てて」
ずっきゅーんと、甘い弾丸で胸を撃たれてる。
残業中、わんこ系後輩男子に、唇を奪われて心を奪われとらわれた私。
……私、城ヶ崎君がどんどん好きになっちゃってるかも〜?
この声は紛れもなく、あの後輩クン。
「やったあ。二人っきりですね、せ・ん・ぱ・い」
会社で人気の後輩男子が、椅子に座る私にバックハグをしてきた!
「きゃあっ、近い! や、やめて」
「ダメですか? 先輩に拒絶されて僕は傷つきました」
「……城ヶ崎君。そんなシュンとされても。私の方が困っちゃうよ」
後輩クンの名前は城ヶ崎君、人懐っこい可愛いわんこ系です。
城ヶ崎君は、童顔で人気者で気配り上手なの。
「僕たちキスした仲じゃないですか」
「あ、あれは君が勝手に……」
「もしかして、イヤでしたか?」
「……あ、えーっと」
城ヶ崎君がうなだれてしょんぼりしてる。
ううっ、なんか母性本能をくすぐられてしまう。
「い、イヤじゃなかったけど」
私がそう言うと、城ヶ崎君の顔がパアッと明るく輝く。
「良かったぁ。で、僕はいつになったら野坂先輩とカレカノになれるんですか? そうだ! もう野坂先輩は僕の彼女ってことで良いですよね」
「か、勝手に私を城ヶ崎君の彼女にしないで〜」
「あ〜あ。どうしたら付き合ってくれるんですか。先輩は強情ですね」
い、いきなり!
椅子をくるりと城ヶ崎君の方に回されて、ゆっくり城ヶ崎君の顔が私に近づいてくる……。
今にも城ヶ崎君の唇が私の唇に触れちゃいそうだよ。
ドキドキ、――ドキン。
キスされちゃう?
「だ、駄目だよ、城ヶ崎君。ここは会社なんだから」
「ちぇっ、キスしたいです」
「……『ちぇっ』とか言われましても」
「う〜ん、会社でイケナイなら……。そうだ! 先輩。残ってる仕事、僕も手伝いますから終わったら僕んちに来ませんか?」
「――えっ?」
城ヶ崎君の顔が真剣で私の心は揺さぶられる。
あらぬ期待を抱いてしまいそう。
城ヶ崎君が私のこと、本気で好きだって勘違いしてしまうよ。
……私をからかってるんじゃないの?
「うちに来たら先輩に僕の手料理をご馳走しますよ」
「手料理かあ」
「先輩の食べたい物、僕が腕によりをかけて作りますよ」
残業時間にオフィスには二人きり。
午後七時半を過ぎた。
晩御飯はまだ食べていないので、たしかにお腹は減り減り。
でも城ヶ崎君のおうちにお邪魔するなんて、……緊張しちゃう。
「先輩は僕と付き合うの、何が駄目なんです?」
「だって社内恋愛って別れた時大変なんだもん」
「ぷっ、ははは。そんな理由ですか? 大丈夫です。僕と先輩なら付き合ったら別れませんよ〜。要は仲良く上手くいけば良いんです」
「……そんな単純に上手くいけば良いけどね。初めは盛り上がってるし、そう思うんだよね」
「大丈夫ですって。僕は先輩のことが大好きですっ。それに僕と付き合うとなにかとお得ですよぉ。毎日手作り弁当を持ってくるし、朝は迎えに行きます。帰りは責任持って家まで送ります! 僕が先輩の彼氏になったら毎日先輩をドキドキさせて甘々に溶かしちゃいます。溺愛しますっ」
「い、いいよ、そんな手作りのお弁当とか送り迎えとか」
「先輩……。好きです」
城ヶ崎君が私の両手を握ると潤んだ瞳を向けてくる。
「どうして僕のこの熱い思いが先輩に伝わらないんですか? 僕はこんなに真剣なのに。僕のことがキライですか?」
「……キライじゃないけど」
いやむしろ、実は好きです。
最近はよく話すし城ヶ崎君って優しいし、それになにかとスキンシップされてドキドキしちゃう。
――好きだと思う。
だけど付き合って別れたら?
城ヶ崎君が浮気したら?
別れれば、またあんな失恋の悲しい思いを惨めな思いをしなくちゃならない。
「ところで僕が外回り中に、僕以外の誰かに胸キュンしたり告白されたりしてませんよね?」
「ま、まさかあ」
私は城ヶ崎君からするりと慌てて逃げて、珈琲を淹れに行く。若干歩く動作はぎこちなくなってしまう。
だって城ヶ崎君が私をじっと見つめてきてる。
熱い視線を私は感じてしまう。
早鐘のように胸は騒がしくて、穏やかな気持ちではいられない。
城ヶ崎君にこんなに心を嵐みたいに吹き荒らされては、なんにも手につかなくなりそう。
朝イチの締め切りに提出する納品書の書類、果たして何時に仕事が終わるだろ。
城ヶ崎君に珈琲を渡すと無邪気な笑顔でにかあっと笑ってくる。
天使か子供みたいだ。
癒やされる〜。
「はい、どうぞ」
「先輩、ありがとう。嬉しいな」
城ヶ崎君はフウフウしてから一口二口飲んで笑う。
「先輩が淹れてくれる珈琲はめちゃくちゃ美味いですっ」
「ありがとう。そんな風に褒めてもらえると嬉しいな。城ヶ崎君は猫舌でしょう? 城ヶ崎君に合わせて火傷しないようにね、沸騰させたお湯を少ぉし冷まして気持ち温《ぬる》めで淹れたからかな」
「先輩……、僕が猫舌って知ってたんだ」
「ふふっ。知ってるよ〜」
「……嬉しいや」
城ヶ崎君の愛嬌のある笑顔は破壊力満点だ。私の胸がいつでもときめきで満たされる。
「ところで野坂先輩、昼休みに営業部三課の八神課長に告白されました?」
「ええっ? ど、どうして城ヶ崎君が知ってるの?」
私はしどろもどろに答えてしまう。
「僕、職場にも友達が多いんです。先輩のことだと特に情報に敏感になっちゃうんだよなあ」
「城ヶ崎君……」
「可愛い先輩が僕以外のものになっちゃイヤだ」
甘い声、甘いセリフにぽ〜っとしてくる。
ど、どうしよう。
「大好きです」
「……城ヶ崎君」
私と城ヶ崎君はただの先輩後輩、同じ会社で同じ部署の同僚なのに。
「さあて、僕も全力で仕事手伝いますから。二人でちゃちゃっと済ませちゃいましょう」
「えぇっ。あ、いいよ。悪いから」
城ヶ崎君はおもむろにスーツの上着を脱いで椅子にかける。
ネクタイを緩めワイシャツの第一ボタンを開けてく。
男らしい鎖骨が見え、上下する喉仏は、城ヶ崎君を意識してる私の目に図らずも飛び込んできた。
「僕が手伝いたいんです。それに一秒だって長く先輩と一緒にいたいから」
「城ヶ崎君。なんで私のことなんか好きとか言ってくれるの?」
「なんかじゃありません。野坂先輩はすっごい素敵で魅力的で可愛いですっ」
……城ヶ崎君。
胸があたたかい。
顔が熱い。
「で、先輩は八神課長の告白にどう答えたんです? 返事はなんてしたの?」
「返事は……」
「八神課長とまさか付き合わないよね、先輩」
「返事はしてないの」
「なんで? もしや八神課長は結婚相手として好条件だから保留ですか?」
城ヶ崎君は腕捲くりをして、パソコンを起ち上げる。
目線は画面なのに、私に刺さるような城ヶ崎君の視線が気持ちが向かってきてる。
「僕よりも八神課長を選ぶんですか? あっちの方が大人で年上で課長だからなのか?」
「違う。……城ヶ崎君のイジワル。八神課長、私に告白するだけして返事も聞かずに営業に出ちゃったから」
「はあ、なんだあ。……断りますよね?」
「城ヶ崎君に言われなくてもそのつもり。好きでもなんでもないしね。あと、八神課長のこと、真剣に好きな子がいるのよ。私が奪う理由なんてないから」
「はあ〜っ。なんだあ、良かった」
いつの間にか張り詰めてしまってた雰囲気はなくなって、いつもの私と城ヶ崎君の感じになる。
「終わったらとりあえず抱きしめさせてください」
「私を抱きしめるの? 城ヶ崎君が?」
「駄目ですか?」
抱きしめられたい。
その意外と逞しい腕で。
城ヶ崎君の胸にうずもれて……って、やだっ、私は疲れているのっ。
癒やしが欲しいだけ。温もりが欲しいだけだ、きっと。たぶん、そう。
温もりをくれるなら城ヶ崎君じゃなくても、誰でも良いの。
ううん、やっぱり城ヶ崎君が良い。
今すぐ抱き寄せられて頬を胸につけて甘えてみたい。
けど城ヶ崎君を甘えさせてあげたいなとか考えちゃう。
こんな破廉恥な妄想が浮かぶのは、上司に押し付けられた仕事が忙しいせいに決まってる。
前カレの中山君が付き合い直そうってまだしつこいけど、流されずに毅然とした態度で断れるのは城ヶ崎君のおかげ。
城ヶ崎君に好きだって言われるたびに、私に自信をくれるから。
「先輩、チョコあげる。甘い物は疲れがとれますよ。あ〜んってして」
「あっ、ありがとう。自分で食べます。いただきますっ」
私が城ヶ崎君から貰ったチョコを口に放り込むと……、チュッ!
城ヶ崎くんの不意打ちキスが私を襲う。
「先輩の唇、柔らかくて甘いです」
「……あわわわわっ」
「キスがチョコ味だ。美味しい」
いきなりでびっくりした。ドキドキして、私、倒れちゃいそう。
二人きりのオフィスには私と城ヶ崎君、甘〜い雰囲気になっています。
「今日こそは僕の告白に『うん』って言ってもらいますからね。覚悟してください」
キスされた唇が熱を帯びる。
「もう一回、キスしても良いですか? 野坂先輩」
「良いわけな〜い」
「もっと僕のやる気爆上がりすんのに」
そう言って城ヶ崎君は私の額にチュッて口づけた。
「きゃあっ」
「仕事が終わるまでは仕方がない。今はおでこで我慢します」
城ヶ崎君はにこにこ笑う。
いたずらなキュートな微笑みが、私の中にあたたかく流れ込む。
私は顔がますます熱くなって城ヶ崎君の唇が当たったおでこも熱い。
「今夜は何が食べたいですか? どこかで買い物も寄りましょう」
「あっ、うん」
「どうしたんです? 野坂先輩、照れた顔が可愛い。先輩はどんな顔も可愛いですけどね」
城ヶ崎君の砂糖マシマシな甘々なセリフが、グイグイ来るんですけど!
ほわーん、ぽわーっとしちゃう。
「そこでストップ、城ヶ崎君! セリフが恥ずかしすぎて仕事が手につかなくなっちゃうから」
「先輩は僕に酔えば良い。僕の言葉で仕事が手につかないだなんて僕は嬉しいから」
城ヶ崎君は私の顔を覗き込んできた。
「先輩は僕だけを見てて。僕だけをその瞳に映して欲しいんだ」
「で、でも仕事はきちんとやります」
「先輩のそういうとこが、さらに僕を好きに夢中にさせる」
今すぐ好きって伝えたい。
ほんとは今すぐ抱きつきたい。
――いやいやいやいや。
駄目だ、だめ。
好きなんだ。
城ヶ崎君を見ていると私、胸があたたかい。
「早く仕事すませて先輩とイチャイチャしたい。何度も口説きますから。先輩を離したくない」
「城ヶ崎君」
も〜。照れちゃう言葉ばかり並べられたら私、どうしたら良いか分からなくなる。
陥落寸前、もうチョコみたいに蕩けそうだ。
「これから僕、集中して一気に書類やっつけちゃいますから」
城ヶ崎君、すごい真剣な目。
私も俄然やる気が出てくる。
城ヶ崎君、甘々で迫ってくる少年っぽさがある普段の彼。いつもとは正反対な表情《かお》してる。
――きゅううんっ。
胸のなか、甘い疼きが切なく鳴る。
「野坂先輩はモテるからなあ。僕もうかうかしてらんないって焦ります」
「……そんなモテないよ」
「自覚ないんですか? 野坂先輩らしいな。……先輩は僕だけ見てて」
ずっきゅーんと、甘い弾丸で胸を撃たれてる。
残業中、わんこ系後輩男子に、唇を奪われて心を奪われとらわれた私。
……私、城ヶ崎君がどんどん好きになっちゃってるかも〜?