「大好き♡先輩、お疲れ様です♡」溺愛💕隣りのわんこ系男子!
第8話 城ヶ崎君視点「先輩、今日も可愛いですね♡」3
「おはよう先輩。先輩、今日も可愛いね♡」
「じょ、城ヶ崎君、おはよう。……可愛いって……」
「どこもかしこも可愛いです、先輩」
朝、起きたら野坂先輩が腕の中にいる。
なんて幸せなんだろう。
先輩は女神みたいな眩さをまとってる。
めっちゃ輝いている、綺麗だ。
先輩の恥じらう姿にきゅんともするし、そそられてしまう。
「先輩、チューさせて」
「駄目だよ……」
「僕の腕の中にいるのに拒むんですか?」
「だ、だって」
僕は女の子に無理矢理キスするのは好きじゃない。
不意打ちキスは好きだ。
だけど、それは相手も好意を持ってくれそうな場合に限ると思う。
で、僕と野坂先輩との場合は、ほぼ両想いではないかと感じてるわけで。
だって僕に抱きしめられて、気持ち良さそうだもん。
こんなににんまりとして僕の胸に頬を寄せているのに、キスしちゃだめとか僕とは付き合えないとか、どうしてですか野坂先輩?
「……無防備ですね。もお、そんな顔して僕に抱かれてるって。可愛すぎですよ、先輩。今から襲っても良いですか?」
「ええっ? 城ヶ崎君?」
「僕だって男ですからね、先輩。大好きな先輩がこんなに近くにいてくれてるのに何もしないってわけにはいかないですよね。キスだけじゃあ、我慢がきかなくなりそうだ」
「城ヶ崎君、冗談でしょ」
野坂先輩の唇を僕の唇でふさぐ。
ついばむようにキスを仕掛けて、僕は先輩の瞳を見つめた。
「先輩、好きだよ。もういい加減に観念して僕と正式に付き合ってください」
「う、うーん」
困ったように身じろいでもだめだよ。
「イヤ? 先輩? 僕とキスしたり抱きしめ合ったり、ドキドキしないの? 先輩の顔、嬉しそうなのに」
「ドキドキしてるよ。あと、イヤじゃないの。城ヶ崎君とこんな風になってイヤじゃないから困ってるの」
臆病なんだね。そんなトコも大好きだよ、先輩。
恋に慎重で、一途でひたむきで。
なんて真っ直ぐな人なんだろう。
「僕なら先輩だけしか見ないから大丈夫だよ。付き合っても泣かせるような真似は絶対にしない。それは心から誓うから。……どうしたら先輩に安心してもらえるんだろう?」
「ありがとう、城ヶ崎君。私なんかにそんな風に言ってくれて。あっ、私、朝御飯を作るね」
野坂先輩が僕の腕から逃げようとする。
僕は先輩を後ろから抱き止める。
この温もりを手放したくはない。
「逃げないで? それからあのね、野坂先輩は『私なんか』って言うの禁止だからね。先輩はすごく素敵なのに」
「城ヶ崎君……。私、逃げたいの。だってこれ以上好きになったら……。私の気持ち、歯止めが効かなくなっちゃうよ、城ヶ崎君」
「せ、先輩! 今、僕を好きって言いましたか?」
「えっ? ああっ、城ヶ崎君の聞き間違いじゃないかな〜」
「いいや、ちゃんと聞きました。野坂先輩は僕を好きだって言いました。先輩、気持ちを誤魔化さないで欲しいです」
「城ヶ崎君……」
そこで『ぎゅるるるっ――』ってお腹が鳴っちゃった。
こんな良い雰囲気なのに〜! もぉっ、僕ってばキメるとこキマらないなあ……。
僕のお腹ならば、空腹より先輩との甘々な時間を優先して空気を読んでくれ〜。
「ふふっ。今、城ヶ崎君のお腹が鳴った〜。ねっ? 朝御飯にしよう」
「あー、なんか恥ずかしいです、僕。せっかくさ、先輩と良い雰囲気だったのにぶち壊した感じ」
「そんな事ないよ。私もお腹が空いたから。城ヶ崎君、冷蔵庫の食材は使って良いかな〜?」
「ああっ、はいっ! なんでも使ってやって下さい。先輩に調理されたら食材も喜びますね」
僕は邪な考えを読まれた気がして、慌ててしまう。
野坂先輩が朝御飯を作ってくれる。
手伝いをしようとしたら、テーブルとか拭いてきてとか言われて。
キッチンに立つ先輩。
僕のエプロンをつける先輩にキュンとくる。く〜っ、眼福だよ。
な、なんかすごく良いっ!
今すぐ抱きしめたい。
そのうち彼シャツとかもお願いしたいや。
先輩、料理がすっごく手際が良いなあっ。
普段から料理をしているみたい。
出来上がったのは和食の朝御飯だった。
土鍋で炊いた御飯、焼き鮭に豆腐とわかめのお味噌汁にだし巻き卵、小松菜の煮浸し……。
「わあっ、美味しそうです!」
「味つけが城ヶ崎君好みだと良いんだけど。どうぞ召し上がれ」
「いただきますっ」
な、なにこれ――?
すっごい美味しい。
「どうかな? 味つけ濃くない?」
「先輩〜、すっごくすっごく美味しいです。……もぐもぐ」
「良かった」
「先輩、料理手慣れてましたよね? 普段からおうちで料理されてるんですね」
一瞬、先輩の返答には間《ま》があった。
答えるのを躊躇うような。
「ああ、うん。うち、母が亡くなってるから私と妹で御飯作ったりしてる。父が料理がぜんぜん出来ないの」
「――えっ……。すいません、僕知らなくて。言いづらいこと言わせてしまいました」
「良いんだよ。ごめん、私の方こそ、城ヶ崎君に気を使わせちゃった。言おうか言うまいか悩むよね。話すと相手をしんみりさせちゃうから、あんまり周りには言ってないんだ」
それでも僕に、先輩はお母さんのことを話してくれたんだ。
「先輩のお母さんってとっても優しくて素敵な人だったんでしょうね」
「うん。優しくて冗談が好きでお茶目なお母さんなんだよ。まだそばにいて欲しかったな」
「……先輩」
「ああ、ごめんごめん。やっぱりしんみりさせちゃうよね。不思議なんだ。城ヶ崎君になら色んなこと、いつの間にか喋っちゃうんだもん。さっ御飯、冷めないうちに食べよ?」
「はいっ!」
先輩が作ってくれた初手料理は、優しい味わい。
僕はすっごい感動してる。
先輩が僕のために朝御飯を作ってくれただなんて、嬉しすぎてどうにかなりそう。
じんわりと先輩の人柄も美味しくて優しい味わいの料理から伝わってくる。
きっと料理を教えてくれただろうお母さんとの思い出も入っているんだよね。
僕はいっそう野坂先輩が愛しくて。
先輩のこと大事にしたいなと思う。
「城ヶ崎君、私、御飯を食べて片づけしたら家に帰るね。着替えとか……お風呂とか入りたいし」
「うちでお風呂に入りますか? 昨日、先輩が寝ちゃう前にすすめたら良かったかな〜。でも先輩、酔っ払って眠そうだったし……。うん、そうだ! 今度からうちに来たらすぐお風呂に入れば良いんですよ。着替えは大きいだろうけど僕の着て。って先輩、なんで顔を赤くしてるんです?」
「やっ、やだ。私、顔が熱い。……城ヶ崎君ん家《ち》のお風呂にはさすがに入れないかな」
先輩が顔を赤らめて両手で頬を覆う。
その先輩の仕草に、僕の胸になんとも言えないドキドキとかきゅうんって胸の甘い疼きが襲ってくる。
「……先輩、なにか想像してます? ずるいぐらい先輩、可愛いです。あ〜抱きしめたいなあ」
「じょ、城ヶ崎君ってば。甘いよ、私恥ずかしい」
「照れてる先輩も可愛いです。僕は先輩ともうしばらくイチャイチャしたいです」
先輩の箸を持つ手が止まる。
僕は先輩を見つめた。
「で、でも。帰らないと父が心配するだろうから」
「そうだ。家にいったん帰ってお父さんを安心させた後、また僕とデートするのはどうですか? 何着か着替えを持って来て? うちに置いておいたら次の日のこととか気兼ねなくいられますよ。今夜も泊まって行ってください。僕が添い寝してあげる」
先輩の顔はさらに、耳まで真っ赤になる。
きゅうううんっ!
か、可愛いっ!
こんなに初心《うぶ》な反応、先輩って純粋だなあ。
「私と城ヶ崎君、付き合ってもないのにね、その〜、……連続でお泊りとかいけないと思うの」
「じゃあ、僕と付き合っちゃいましょう。そんなに難しく考えずに。僕といるとドキドキしてくれているんでしょう?」
「そ、それはドキドキしてるけど。今日は帰るよ」
「……先輩ってイジワルだ。僕の心を弄んでる。先輩、僕と一緒にいてほしい」
先輩の顔がハッとなる。
こんなこと言って困らすつもりもなかったのに、僕は野坂先輩を諦めるとか出来ないから。
「今日は予定とか無いんですよね?」
「……無いよ」
「一緒にたくさんお喋りしよ? 僕、もっともっと先輩のことが知りたいんだ」
「城ヶ崎君……。私じゃなくてもいっぱい城ヶ崎君のこと好きになる女の子はいると思うよ」
「僕は野坂先輩が良いんだ。分かる? 好きって気持ちは止められないし、コントロールなんて利かないんだよ」
僕はただ、思いを込めて野坂先輩を見つめた。
気持ちが通じ合ったら嬉しい。
「そうだね、それは分かるかも。気づいたら好きになってたりして。好きになっていくのをやめようとしても、なかなかその気持ちは止めたり出来ないものね」
先輩、誰を思い出しているの?
僕は先輩の切なげな顔に、胸の奥が鋭く痛んだ。
野坂先輩にそんな顔をさせる男。僕の中の嫉妬って感情ってやつがぴょこんと顔を出した。
「茜音」
「――えっ」
「いつか先輩をそう呼べる存在になりたいです。僕も悠太って呼んでもらえるようになりたい」
「名前呼び……。それは照れちゃうね。私、憧れるけど男の人を名前呼びだなんて出来るかな」
先輩のはにかんだ笑顔がパアッと輝いて見える。
その微笑みが僕だけに向けられてるとか思うと幸せすぎて死にそうだ。
「呼んでみてくれても良いんだよ」
「こ、今度にしとく〜。恋愛下手な私にはハードル高すぎだよ、城ヶ崎君」
「ちぇっ、残念。――で、今日もデートしてもらえますか?」
「う、うーん」
「しましょうよ、デート」
「……うん」
「よっしゃあ、やったあ!」
「城ヶ崎君、喜びすぎ」
「だって喜んで当たり前ですよ。先輩とデートが出来るんですよ? 今日もずっと一緒にいられるんだから」
あ〜、早くイチャイチャしたいな。
先輩を楽しませたい。
笑顔になってもらいたい。
あわよくば今日こそ僕と付き合うって言ってもらいたい。
じっくり攻めることになりそうだけど、今は先輩とのデートを楽しもう。
喜んでもらえるように頑張らなくては。
「先輩、今日もイチャイチャしましょうね」
「い、イチャイチャ〜? そういうの恥ずかしいから口に出して言わないで」
僕はますます意気込んでいた。
先輩とどんどん仲良くなれていると、少なからず思っていた。
野坂先輩の気を許してくれている可愛い笑顔と表情に安心してた。
僕を好きなんだって言ってくれたし。
手応えとか実感とか、ちょっとだけ自信とか出てきてたんだ。
――なのに。
これからとんでもんなく強力なお邪魔虫が入って来るとは、この時の僕には分かっていなかった。
大好きな野坂先輩が目の前にいるってだけで、僕は嬉しすぎて。
「じょ、城ヶ崎君、おはよう。……可愛いって……」
「どこもかしこも可愛いです、先輩」
朝、起きたら野坂先輩が腕の中にいる。
なんて幸せなんだろう。
先輩は女神みたいな眩さをまとってる。
めっちゃ輝いている、綺麗だ。
先輩の恥じらう姿にきゅんともするし、そそられてしまう。
「先輩、チューさせて」
「駄目だよ……」
「僕の腕の中にいるのに拒むんですか?」
「だ、だって」
僕は女の子に無理矢理キスするのは好きじゃない。
不意打ちキスは好きだ。
だけど、それは相手も好意を持ってくれそうな場合に限ると思う。
で、僕と野坂先輩との場合は、ほぼ両想いではないかと感じてるわけで。
だって僕に抱きしめられて、気持ち良さそうだもん。
こんなににんまりとして僕の胸に頬を寄せているのに、キスしちゃだめとか僕とは付き合えないとか、どうしてですか野坂先輩?
「……無防備ですね。もお、そんな顔して僕に抱かれてるって。可愛すぎですよ、先輩。今から襲っても良いですか?」
「ええっ? 城ヶ崎君?」
「僕だって男ですからね、先輩。大好きな先輩がこんなに近くにいてくれてるのに何もしないってわけにはいかないですよね。キスだけじゃあ、我慢がきかなくなりそうだ」
「城ヶ崎君、冗談でしょ」
野坂先輩の唇を僕の唇でふさぐ。
ついばむようにキスを仕掛けて、僕は先輩の瞳を見つめた。
「先輩、好きだよ。もういい加減に観念して僕と正式に付き合ってください」
「う、うーん」
困ったように身じろいでもだめだよ。
「イヤ? 先輩? 僕とキスしたり抱きしめ合ったり、ドキドキしないの? 先輩の顔、嬉しそうなのに」
「ドキドキしてるよ。あと、イヤじゃないの。城ヶ崎君とこんな風になってイヤじゃないから困ってるの」
臆病なんだね。そんなトコも大好きだよ、先輩。
恋に慎重で、一途でひたむきで。
なんて真っ直ぐな人なんだろう。
「僕なら先輩だけしか見ないから大丈夫だよ。付き合っても泣かせるような真似は絶対にしない。それは心から誓うから。……どうしたら先輩に安心してもらえるんだろう?」
「ありがとう、城ヶ崎君。私なんかにそんな風に言ってくれて。あっ、私、朝御飯を作るね」
野坂先輩が僕の腕から逃げようとする。
僕は先輩を後ろから抱き止める。
この温もりを手放したくはない。
「逃げないで? それからあのね、野坂先輩は『私なんか』って言うの禁止だからね。先輩はすごく素敵なのに」
「城ヶ崎君……。私、逃げたいの。だってこれ以上好きになったら……。私の気持ち、歯止めが効かなくなっちゃうよ、城ヶ崎君」
「せ、先輩! 今、僕を好きって言いましたか?」
「えっ? ああっ、城ヶ崎君の聞き間違いじゃないかな〜」
「いいや、ちゃんと聞きました。野坂先輩は僕を好きだって言いました。先輩、気持ちを誤魔化さないで欲しいです」
「城ヶ崎君……」
そこで『ぎゅるるるっ――』ってお腹が鳴っちゃった。
こんな良い雰囲気なのに〜! もぉっ、僕ってばキメるとこキマらないなあ……。
僕のお腹ならば、空腹より先輩との甘々な時間を優先して空気を読んでくれ〜。
「ふふっ。今、城ヶ崎君のお腹が鳴った〜。ねっ? 朝御飯にしよう」
「あー、なんか恥ずかしいです、僕。せっかくさ、先輩と良い雰囲気だったのにぶち壊した感じ」
「そんな事ないよ。私もお腹が空いたから。城ヶ崎君、冷蔵庫の食材は使って良いかな〜?」
「ああっ、はいっ! なんでも使ってやって下さい。先輩に調理されたら食材も喜びますね」
僕は邪な考えを読まれた気がして、慌ててしまう。
野坂先輩が朝御飯を作ってくれる。
手伝いをしようとしたら、テーブルとか拭いてきてとか言われて。
キッチンに立つ先輩。
僕のエプロンをつける先輩にキュンとくる。く〜っ、眼福だよ。
な、なんかすごく良いっ!
今すぐ抱きしめたい。
そのうち彼シャツとかもお願いしたいや。
先輩、料理がすっごく手際が良いなあっ。
普段から料理をしているみたい。
出来上がったのは和食の朝御飯だった。
土鍋で炊いた御飯、焼き鮭に豆腐とわかめのお味噌汁にだし巻き卵、小松菜の煮浸し……。
「わあっ、美味しそうです!」
「味つけが城ヶ崎君好みだと良いんだけど。どうぞ召し上がれ」
「いただきますっ」
な、なにこれ――?
すっごい美味しい。
「どうかな? 味つけ濃くない?」
「先輩〜、すっごくすっごく美味しいです。……もぐもぐ」
「良かった」
「先輩、料理手慣れてましたよね? 普段からおうちで料理されてるんですね」
一瞬、先輩の返答には間《ま》があった。
答えるのを躊躇うような。
「ああ、うん。うち、母が亡くなってるから私と妹で御飯作ったりしてる。父が料理がぜんぜん出来ないの」
「――えっ……。すいません、僕知らなくて。言いづらいこと言わせてしまいました」
「良いんだよ。ごめん、私の方こそ、城ヶ崎君に気を使わせちゃった。言おうか言うまいか悩むよね。話すと相手をしんみりさせちゃうから、あんまり周りには言ってないんだ」
それでも僕に、先輩はお母さんのことを話してくれたんだ。
「先輩のお母さんってとっても優しくて素敵な人だったんでしょうね」
「うん。優しくて冗談が好きでお茶目なお母さんなんだよ。まだそばにいて欲しかったな」
「……先輩」
「ああ、ごめんごめん。やっぱりしんみりさせちゃうよね。不思議なんだ。城ヶ崎君になら色んなこと、いつの間にか喋っちゃうんだもん。さっ御飯、冷めないうちに食べよ?」
「はいっ!」
先輩が作ってくれた初手料理は、優しい味わい。
僕はすっごい感動してる。
先輩が僕のために朝御飯を作ってくれただなんて、嬉しすぎてどうにかなりそう。
じんわりと先輩の人柄も美味しくて優しい味わいの料理から伝わってくる。
きっと料理を教えてくれただろうお母さんとの思い出も入っているんだよね。
僕はいっそう野坂先輩が愛しくて。
先輩のこと大事にしたいなと思う。
「城ヶ崎君、私、御飯を食べて片づけしたら家に帰るね。着替えとか……お風呂とか入りたいし」
「うちでお風呂に入りますか? 昨日、先輩が寝ちゃう前にすすめたら良かったかな〜。でも先輩、酔っ払って眠そうだったし……。うん、そうだ! 今度からうちに来たらすぐお風呂に入れば良いんですよ。着替えは大きいだろうけど僕の着て。って先輩、なんで顔を赤くしてるんです?」
「やっ、やだ。私、顔が熱い。……城ヶ崎君ん家《ち》のお風呂にはさすがに入れないかな」
先輩が顔を赤らめて両手で頬を覆う。
その先輩の仕草に、僕の胸になんとも言えないドキドキとかきゅうんって胸の甘い疼きが襲ってくる。
「……先輩、なにか想像してます? ずるいぐらい先輩、可愛いです。あ〜抱きしめたいなあ」
「じょ、城ヶ崎君ってば。甘いよ、私恥ずかしい」
「照れてる先輩も可愛いです。僕は先輩ともうしばらくイチャイチャしたいです」
先輩の箸を持つ手が止まる。
僕は先輩を見つめた。
「で、でも。帰らないと父が心配するだろうから」
「そうだ。家にいったん帰ってお父さんを安心させた後、また僕とデートするのはどうですか? 何着か着替えを持って来て? うちに置いておいたら次の日のこととか気兼ねなくいられますよ。今夜も泊まって行ってください。僕が添い寝してあげる」
先輩の顔はさらに、耳まで真っ赤になる。
きゅうううんっ!
か、可愛いっ!
こんなに初心《うぶ》な反応、先輩って純粋だなあ。
「私と城ヶ崎君、付き合ってもないのにね、その〜、……連続でお泊りとかいけないと思うの」
「じゃあ、僕と付き合っちゃいましょう。そんなに難しく考えずに。僕といるとドキドキしてくれているんでしょう?」
「そ、それはドキドキしてるけど。今日は帰るよ」
「……先輩ってイジワルだ。僕の心を弄んでる。先輩、僕と一緒にいてほしい」
先輩の顔がハッとなる。
こんなこと言って困らすつもりもなかったのに、僕は野坂先輩を諦めるとか出来ないから。
「今日は予定とか無いんですよね?」
「……無いよ」
「一緒にたくさんお喋りしよ? 僕、もっともっと先輩のことが知りたいんだ」
「城ヶ崎君……。私じゃなくてもいっぱい城ヶ崎君のこと好きになる女の子はいると思うよ」
「僕は野坂先輩が良いんだ。分かる? 好きって気持ちは止められないし、コントロールなんて利かないんだよ」
僕はただ、思いを込めて野坂先輩を見つめた。
気持ちが通じ合ったら嬉しい。
「そうだね、それは分かるかも。気づいたら好きになってたりして。好きになっていくのをやめようとしても、なかなかその気持ちは止めたり出来ないものね」
先輩、誰を思い出しているの?
僕は先輩の切なげな顔に、胸の奥が鋭く痛んだ。
野坂先輩にそんな顔をさせる男。僕の中の嫉妬って感情ってやつがぴょこんと顔を出した。
「茜音」
「――えっ」
「いつか先輩をそう呼べる存在になりたいです。僕も悠太って呼んでもらえるようになりたい」
「名前呼び……。それは照れちゃうね。私、憧れるけど男の人を名前呼びだなんて出来るかな」
先輩のはにかんだ笑顔がパアッと輝いて見える。
その微笑みが僕だけに向けられてるとか思うと幸せすぎて死にそうだ。
「呼んでみてくれても良いんだよ」
「こ、今度にしとく〜。恋愛下手な私にはハードル高すぎだよ、城ヶ崎君」
「ちぇっ、残念。――で、今日もデートしてもらえますか?」
「う、うーん」
「しましょうよ、デート」
「……うん」
「よっしゃあ、やったあ!」
「城ヶ崎君、喜びすぎ」
「だって喜んで当たり前ですよ。先輩とデートが出来るんですよ? 今日もずっと一緒にいられるんだから」
あ〜、早くイチャイチャしたいな。
先輩を楽しませたい。
笑顔になってもらいたい。
あわよくば今日こそ僕と付き合うって言ってもらいたい。
じっくり攻めることになりそうだけど、今は先輩とのデートを楽しもう。
喜んでもらえるように頑張らなくては。
「先輩、今日もイチャイチャしましょうね」
「い、イチャイチャ〜? そういうの恥ずかしいから口に出して言わないで」
僕はますます意気込んでいた。
先輩とどんどん仲良くなれていると、少なからず思っていた。
野坂先輩の気を許してくれている可愛い笑顔と表情に安心してた。
僕を好きなんだって言ってくれたし。
手応えとか実感とか、ちょっとだけ自信とか出てきてたんだ。
――なのに。
これからとんでもんなく強力なお邪魔虫が入って来るとは、この時の僕には分かっていなかった。
大好きな野坂先輩が目の前にいるってだけで、僕は嬉しすぎて。