「大好き♡先輩、お疲れ様です♡」溺愛💕隣りのわんこ系男子!

第9話 城ヶ崎君視点「先輩、今日も可愛いですね♡」4

「――で、なんで僕があなたのお供に選ばれたんですか?」

 僕は今、常盤社長の仕事に同行している。

 運転手つきの高級外車(リムジンだかロールスロイスだか知らないけど)の広い後部座席で向かい合って座っていて、居心地が悪い。

「城ヶ崎君は野坂さんの教育が良いからか優秀だからね。ああ、それに君は人当たりが良くにこやかで得意先の受けが良い。あざと可愛いわんこ系男子ってとこかな?」
「常盤社長からそんなに褒められるとゾワゾワするんですけど。えっ? まさか僕狙いじゃないですよね」

 ププッと常盤社長は吹き出して、ツボに入ったのかくすくす笑う。
 足を組んで座り口元に手を当て笑う姿はスマートで。なんていうか笑い方もイケメン。
 ムカムカするなあ。

「私は野坂さんひと筋だよ。野坂さんを連れて来ても良かったんだが、あからさま過ぎるだろ? 私が野坂さんをデートに誘ったことが意外に早く社内に知られてしまったからな」
「野坂先輩に女性社員の敵が増えるからやめてくれませんかね」
「大丈夫。フォローしておいたから」
「私的《プライベート》ではなく仕事だって誤魔化したところで、まあバレバレだと思いますけど」

 まったく……。恋敵の常盤社長と過ごしたくもないけど、野坂先輩と常盤社長が二人で出掛けるのは仕事でもすっごいイヤだ。
 僕が生贄になるぐらい、大したことない。構わない。

 大人の男の余裕さが漂うイケメン社長、バツイチだとしてもそれすらも一部の女性にはプラスらしい。

『バツイチってモテるのよ。常盤社長はイケメンだし余裕とかミステリアスさもあるし、城ヶ崎君も茜音ちゃんを盗られないように気をつけなさいね〜』

 僕は同じ部署の今田主任の言葉を思い出す。
 なにかと僕と野坂先輩を世話して気にかけてくれる優しい今田主任は既婚者で、野坂先輩の先輩。
 職場の年上の女性のなかで、同僚からはお姉さんというより、ほんわかお母さんみたいで慕われている。

『茜音ちゃん、恋愛経験があんまり無いし人が良いからか押しに弱いと思うのよ。常盤社長はグイグイきそうですもん。私は、茜音&城ヶ崎君推しだからねっ』

 今田主任、鋭いです。
 野坂先輩は押しに弱い気がする。
 常盤社長はグイグイ行く派だと、僕も思います。

「僕を指名した理由は他にもあるのでは? この際はっきりさせておきたいんですが、野坂先輩と僕は両想いなんです。邪魔しないでください」
「付き合ってもないくせに、か? 野坂さんと城ヶ崎君は交際には至っていないんだろう? 私はさっき休憩時間に、野坂さんに交際を申し込んできたよ」

 僕は頭が真っ白になっていた。
 ショックだ。
 ちょっとした隙にまさか常盤社長が野坂先輩に気持ちをぶつけるとは思わなかった。
 この人は脅威だ、やることが素早い。

「今あるチャンスに挑まないのは幸せを逃す臆病者だ。明日にしようとするは馬鹿者だ」
「誰かの名言格言ですか?」
「私だ」
「自信満々でむかつきますね」
「城ヶ崎君、社長である私にそんな言い方は良くないね。まあ、移動するのも仕事だから今は野坂さんの話をするのはやめようか」
「……たしかに言葉が過ぎました。すいません」

 僕は車の窓から次々に流れ移ろう景色を眺めた。

 野坂先輩、あなたは常盤社長の告白にどう答えたんです?
 返事はどう返したの?
 気になって仕方がなかったが、一生懸命心の隅に追いやって頭を仕事に切り替える。
 ヘマをしたら、先輩に迷惑がかかる。
 それに僕は先輩のために役に立ちたくて、少しでも先輩にカッコイイとか思ってもらいたいから仕事を頑張ります。
 悩みがあっても向き合う仕事は全力で。
 僕は野坂先輩を見ていたから。
 頑張り屋さんの先輩をずっとそばで見てるから、先輩に習ってそうします。

   🌹

「ご苦労さま。見込んだとおり、城ヶ崎君の仕事ぶりは良かったよ。また頼むな」
「ありがとうございます。……定時は過ぎましたよね? プライベートな質問をしても構わないですか?」

 取引先との会議は上手くいき、常盤社長はご機嫌な様子だった。
 帰りの車の中で僕は常盤社長に挑む覚悟を決めた。

「構わんよ。《《俺》》もそのつもりだ。ところで城ヶ崎君は直帰するなら家まで送らせようか? それとも会社に戻るかい」
「会社に戻ります。会いたい人がいるんで」
「それって野坂さんだろ。俺が今夜は食事に誘ってるから、彼女はもう先に店に向かってると思うぞ。だから社内には残っていないんじゃないか」
「……野坂先輩、あなたと食事に行くってオッケーしたんですか?」

 そんな。野坂先輩が常盤社長と二人きりで食事に行くだなんていやだ。

「オッケーしてくれたよ」
「嘘だ。野坂先輩が社長と二人だなんて」
「別に食事ぐらい構わんだろ? お互いに独身でやましいことはないわけだしな。口説くつもりはあるけどね」

 すっげえ、ショック。
 この間、野坂先輩は僕の家に来てくれて。
 二人で過ごした時間は特別だって思ってた。
 頭がぽや〜っとして、痛くてなんかクラクラしてきた。

「大丈夫か? 顔色がわるいぞ、城ヶ崎君。やっぱり家まで送ろう」
「いや、良いです。会社で大丈夫です」

 僕はとりあえず会社まで送ってもらい自分のデスクに辿り着いた。


 営業企画課のフロアは電気が点いていたけど、誰も見当たらない。

「先輩……」

 さっきまで誰か居たのかな。
 野坂先輩……。
 先輩は常盤社長と……。

「……野坂先輩」

 僕がしょげていると後ろから、優しくとんとんと背中を叩かれた。
 だ、誰っ?

「城ヶ崎君」
「の、野坂先輩っ!?」
「そんなに驚ろかせちゃった? ふふっ。お帰り、城ヶ崎君お疲れ様。待ってたんだよ」
 
 振り返ると、野坂先輩のくりくりとした大きな瞳が潤んでて僕を見ている。
 きらきらな先輩。
 可愛い、僕の大好きな野坂先輩。

 良かった、まだここにいたんだ。

「先輩、なんでいるの? 常盤社長と食事に出掛けたんじゃ……」
「えっ? だって今日も三人で御飯に行こうって常盤社長が言ってたけど。私、社長と二人だけでは行かないかな〜。イケメンすぎて圧が迫力が凄いのよね、常盤社長って」

 せ、せんぱ〜い!
 ああっ、大好きです。
 心配したんです。
 野坂先輩が常盤社長の方を選ぶんじゃないかって。

 ……っていうかあの社長っ、僕をダシに使ってんじゃんか。
 あー、まんまとやられた。
 悔しいけど、相手が一枚うわてなんだ。

「先輩。ちょっと僕クラクラってして目が回って……」
「じょ、城ヶ崎君! 城ヶ崎君、大丈夫? 大変、熱があるんじゃない?」

 頭がグラッとして体がふらつく、野坂先輩が抱き止めてくれた。
 先輩からいい匂いがする。
 薔薇のようないい匂いがふわあっと鼻腔をくすぐる。

「城ヶ崎君っ!?」

 ……情けないな。
 それからはあんまり記憶がない。


      🌹


 目を開けると、先輩が横で座りながら僕の手を握ってくれてた。
 僕は見知らぬ場所のベッドに寝てた。
 先輩はベッドの横のパイプ椅子に座ったまま、うつ伏せに寝てる。

「野坂先輩……。風邪引いちゃうよ。うん? ここどこ?」
「……城ヶ崎君。起きたかい?」
「と、常盤社長も。なんで……」
「ここは病院だよ。君は過労で熱が出たらしい。明日には退院が出来るようだが、仕事は全快するまでしばらく休むと良い」

 付き添ってくれながら寝てしまっていた野坂先輩が、目を覚まして起きた。
 先輩の瞳が溜まった涙で揺れてて。僕をその瞳でじっと見てる。
 心配してくれてるんだね、先輩。ありがとう。

「常盤社長が病院まで運んでくれたんだよ」
「あ、ありがとうございました」

 常盤社長はそれじゃあと帰って行った。
 あとには野坂先輩がいてくれてる。

「城ヶ崎君、おうちの人が来るまで、私がついててあげるからゆっくり休んでね」
「はい……。あの、先輩」
「うん? なあに」
「抱きしめて」
「えっ……」

 野坂先輩の顔が僕が「抱きしめて」と言った瞬間に一気に真っ赤に染まる。
 先輩、その反応……可愛い〜。

「僕を抱きしめて欲しいな。今すぐ野坂先輩に抱きしめて貰わないと死んじゃう」
「じょ、城ヶ崎君。……もぉ、君は甘え上手だよね」
「野坂先輩の温もりを摂取しないと、今の弱った僕はダメダメなんです」
「……仕方ないなあ」

 僕が上半身を起こすと野坂先輩が抱きついてきてくれる。
 ぎゅっと抱きしめられて、僕は不覚にも泣きそうになった。

「先輩、今日もとっても可愛いですね」
「城ヶ崎君、こんな時に……」
「だって先輩が可愛いんだもの。ねえ、先輩。常盤社長からの告白にどう答えたんです? 返事はしたの? イヤだ、社長と付き合っちゃ」
「うっん。告白? ……っていうか城ヶ崎君くすぐったいよ」

 野坂先輩の耳元に唇を近づけ囁くように話すと、先輩の体が微かに震えた。

「くすぐったいの?」
「う、うん。耳に城ヶ崎君の息がかかって……」

 僕は先輩に追い打ちをかける。

「常盤社長からの告白は?」
「さっきから告白って何? 労いの言葉は言われたけど? 『野坂さんの仕事の姿勢が好きだな。頑張ってるね』って」

 あンの社長めっ。
 またしても揺さぶりをかけられただけか。
 ちゃんとした告白なんて先輩にしてないじゃないか。

「先輩は僕だけしっかり見てて?」
「城ヶ崎君。……きゃっ」

 僕は先輩の耳に口づけると、先輩はますます赤くなった。

「もぉっ、ちゃんと寝てなさい」
「イヤだ。先輩とイチャイチャしたい」
「城ヶ崎君は病人なんだからね。イチャイチャ禁止です」
「えー! それだと早く治りませんよ」
「ううっ、じゃあ毎日城ヶ崎君のとこにお見舞いに来るから」
「まあ、それなら良いです」

 あー、先輩の耳は柔らかかったな。
 先輩に抱きしめてもらえたから幸せで、安心した。

 それにしても――、常盤社長って頭が回る。
 ずる賢いじゃないか。
 だれが回りくどいのはキライでね、だ。
 あの人、ひと癖もふた癖もあって要注意だ。
 野坂先輩の元カレ筋肉馬鹿な中山さんより手強くて厄介そうだぞ。

 僕は野坂先輩を渡す気はないから。
 それにはやっぱり、先輩にきちんとお付き合いをしてもらわないとね。

 僕は先輩には真っ向勝負、真っ直ぐに誠実に甘々で攻めますよ。

 覚悟しておいてね、先輩。

 僕は先輩に見つめられて。
 じっと見つめ返す。

「心配したんだから」
「えっ? 先輩……」
「しっかり治してね、城ヶ崎君。そしたら……」
「そしたら?」
「また……。う〜んと……え〜っと……」
「……先輩?」
「わ、私とデートしようね、城ヶ崎君」

 カアッ……。
 僕は顔が沸騰したみたいに熱くなった。
 野坂先輩の恥ずかしそうに笑う顔に、きゅんってとくんって胸が高鳴る。

「は、早く治します。出来るだけ早く、頑張って治しますっ」

 僕もなんだか恥ずかしくなって掛け布団を頭まで被った。
 野坂先輩が布団の上から頭を撫で撫でしてくれたり、とんとんと優しく胸元を叩いてくれる。

 野坂先輩が僕のそばにいる。
 ああ、嬉しいな。

 僕は幸せな気分のまま、いつしか眠りに落ちていった。
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