月へとのばす指
午前の外回りを終えて戻ってきた久樹は、その日の昼食を屋上で取ることにした。自社ビルの屋上は一部が庭園のように緑化されており、社員の憩いスペースのひとつとなっている。
戻りがけに買ってきた弁当を手に屋上に出ると、昼休みが過ぎたばかりのため、閑散としていた。いくつかあるベンチにも人の姿はない。静かに考え事をしたい心境だったから、ちょうどよかった。
幕の内弁当を開き、食べ始めながら、朝から思案していることをまた思い返す。言うまでもなく、唯花と接触するための方法だった。
だが、何度考えてみてもたいした作戦は出てこない。仕事を装って呼び出すか、待ち伏せるか、再び家を訪ねるか──弟の功貴に頼んで携帯番号を調べてもらうか。
一つ目は冷静に考えて不自然である。
二つ目は他の社員から見て誤解を生む可能性がある。
三つ目は、できれば最後の方法として取っておきたい。
そして四つ目は──もっとも確実だろうとは思うが、正直言って癪である。つまらないプライド、そして何より今さらの言い分かもしれないが、兄として弟に弱みを見せるのは、最小限にしておきたかった。
そんなふうに、ぐるぐると同じことを考えていると、階段室に通じるドアがかちゃりと音を立てた。誰か来たらしい、と反射的に顔を上げて、あやうく箸を取り落としそうになった。
唯花が、コンビニの物らしき袋を手に、姿を現した。目に付いたらしい空きベンチ、久樹の斜め前方十メートルほどの位置に座る。こちらには気付いていない様子だった。
昼休みは十五分前に終わっている。それなのに今ここへ来たということは、電話番か何かの役目があったのだろう。袋から取り出したサンドイッチとパック飲料を手に、彼女は食事を始めた。
そんな少ない食事で大丈夫なのかと思ったが、もそもそとした食べ方からすると、あまり食欲がないようだ。体調がまだ、完全には戻っていないのかもしれない。
唯花が食べ終わったタイミングで側に行こう。そう決めて久樹は、ともかく自分の弁当を食べきることに集中した。
──七分後。
サンドイッチの包装をビニール袋に入れかけている唯花の元に、自分の片づけもそこそこに久樹は走り寄った。足音が立ち、さすがに気づいたらしい彼女は顔を上げる。
驚愕に目を見開く唯花の隣に、久樹は素早く座った。
「……あ」
「久しぶり」