月へとのばす指
【2】
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「……では、次の議題に移ります。○×フーズとの提携事業について」
席に着いたまま、久樹は込み上げてくるあくびを何とかこらえた。
朝一、九時から続く会議は、まだ終わる気配を見せない。営業はもともと会議が多く、その頃にも辟易していたものだったが、管理職がそれにも増して、会議に次ぐ会議といった立場であるとは思わなかった。
営業次長としての日々が始まって、早や一ヶ月が経とうとしている。とはいえ実質的には見習いみたいなもので、毎日の仕事は外回りが中心。管理職としての代名詞、書類の決裁といったものはまだ任されない。だが会議については、本社内で行われる、営業が関わるすべてのものに対し出席を義務づけられていた。
管理職の仕事の半分は決裁、もう半分は会議だと、誰かが言っていたのを以前聞いた気がする。誰だったろうか。何にせよその通りだ、と思わざるを得ない。この一ヶ月でいったい、いくつの会議に出たことだろう。
ため息をこらえるのも、すっかり習慣になってしまった。
傘下の大手スーパーマーケットと、急成長を遂げている食品販売会社との、コラボレーション企画の進行具合について報告を受け、今後の計画を担当者からプレゼンテーションされること四十分。さらに二十分の質疑応答タイムがあり、それが終わってようやく、会議は終了となった。
時計を見ると、すでに午後二時に近い。昼食は十二時過ぎに支給された弁当を食べたが、会議の進行は止められないままだったので、あまり食べた気がしない。幸い今日は外回りの予定が入っていないしと思って、外へ軽く食べに行くことにした。直属の上司である営業部長に断りを入れ、会議室を出る。
時間的に、ランチタイムが終わっている店が多かったが、目に付いた有名チェーンのカフェテリアがまだランチを出していた。ドリンク付きのクラブハウスサンドを心持ちゆっくり食べて、やっと人心地ついた気分になる。
アイスコーヒーを飲みつつ、ふと視線だけを動かすと、その先の席に座っていた女性二人が、ぱっと同時に顔を逸らした。そうして何かこそこそと話を始める。
振り向いたりはしないが、おそらく視界の外でも、こちらを見ている女性はいるのだろうと思った。心の中で久樹は、軽くため息をつく。
自分が目立つ容姿をしていることは、事実としてわかっている。正直言うなら、自分自身でもそう感じるので、自慢に思う気持ちもゼロではない。そして、実家が資産家で大企業の社長の息子という境遇、条件が周りにどんなふうに見えてどんな反応を得られるのかも、子供の頃からよく知っているつもりだ。