その物語のタイトルはいま君の掌の中に
第二話 蒼と私の七日間
──1day

六畳の自室には机とシングルベッドとクローゼットだけの殺風景な部屋だったが、昨日の夜からは違う。

「ほんとに持って帰ってきちゃった……」

机と壁の間に立てかけるようにして置いてある蒼のギターを、私はもう何度眺めただろうか。

「……恋愛ごっこか」

正直実感なんてまるでない。でもこのギターとスマホに新しく追加された『蒼』の文字に昨日のことが嘘ではないと実感する。

「あ、シミになる前に洗わなきゃ」 

私は昨日貸してもらった蒼のシャツを抱えて洗面所に向かった。

洗面所のシンクに水を張ると私はシャツを入れて手洗い用の洗剤を入れる。

「男の子の洋服って大きいんだな……」

蒼は背が高く肩幅も大きかった。いつも洗っている父のワイシャツよりも一回りも大きい。

生地を痛めないよう気をつけながら、砂浜で少し汚れてしまったところを中心に擦り洗いしていく。小さな泡はあっという間に膨れ上がっていく。その粒がいつもは涙と不安に見えるのに、今日はその粒の一つずつが光を放ってみえる。私は何度も水で濯ぐと掌で押して水気を取った。
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