その物語のタイトルはいま君の掌の中に
自宅から自転車で15分程の見慣れた海辺へ辿り着くと、自転車のカゴから引ったくるようにノートを掴んで真っ直ぐに砂浜を歩いていく。

スニーカーに砂が入り込み、波が寄せて足首がひんやりとするのも構わず、私はザブザブと海へ入っていく。

「わあぁぁぁーーっ」

水平線に向かって、私は腹の底から声を張り上げた。

太陽に照らされて青空が海面に映り込みながら煌めいて揺れる。私は腕を振り上げると勢いよくノートを投げ捨てた。パチャンと小さな音がしてノートは、ぷかぷか浮かびながら広い海をまるで楽しむかのように波と共にゆらゆらダンスを踊っている。

「はぁっ……はぁっ……ムカつく」

全ての綺麗な色も澄んだ空気も濁って見える。

「……全部なくなってしまえばいいのに」

大きな声で叫んでも海はいつものように波を寄せては返しながら、青い世界を見せつけてくる。

暫く海に漂うノートを見つめていたが、今日に限って波が押し寄せる力の方が強いのか、少しずつノートがこちらに向かって戻ってきている。

「なんなのよ……誰にも見つけてもらえないアンタなんかどっかいきなさいよ」

私はザブザブと海の中を腰まで浸かりながら
進んでいくと、ようやく再びノートを掌に握りしめた。

「もう二度と戻ってこれないように捨ててやるんだからっ」

私はさらに沖の方へと海の中を大きく腕を振って歩いていく。

「ばっかじゃねぇのっ!」
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