わたしが悪役令嬢になった日
(もしかして、このお茶会って、悪役令嬢のためのお茶会!?)

 ざっと会場を見渡した限りでは、悪役令嬢以外の女性――例えば、ヒロインなどは、ここにいないようだ。
 わたしが転生したヒロインのカナリアのように、このお茶会にも他の作品のヒロインが参加しているかと思ったが――。

「こちらがカナリア様のお席となります。もう少しでお開きとなりますが、しばしご歓談をお楽しみください」

 執事が引いてくれた椅子に座ると、対面に座るオレンジ色の縦巻きロールが口を開いたのだった。

「あらあら。急に具合が悪くなって退席したようですが、もうよろしいのですか?」
「ええ。ご心配をおかけしました」

 オレンジ色の縦巻きロール以外にも、同じテーブルには二人の女性がいたが、いずれもどこかで見たことのある悪役令嬢だった。

「今は私たちが目をつけている女狐たちについて話していたのよ。あなたもどうかしら?」
「そ、そうですね……」

 乾いた笑みを浮かべて、返事をしながら内心では冷や汗を掻いていた。

(マズイ……非常にマズイ)

 悪役令嬢というのは、自分の居場所、立場を奪ったヒロインを恨んでいる。
 そこにヒロインである自分が混ざっているとバレたらどうなる。
 他作品のヒロインとはいえ、袋叩きに遭いはしないか。

(もうすぐお開きになるっていう話だし、バレないようにしないと……)

 それから、わたしは悪役令嬢たちの聞き役に徹した。
 すると、急にオレンジ色の縦巻きロールが、わたしに声を掛けてきたのだった。

「ところで、あなた」

 わたしはビクリと肩を揺らす。

「あなたは何か仕返しした? 卑しい女狐について」
「わ、わたし!? わたしは……」

 他の悪役令嬢たちからも、同じように期待するような目を向けれられて言葉に詰まる。

(何か適当に言わないと、何か……)

 考えていると、不意につい最近まで読んでいたひと昔前の悪役令嬢の話を思い出す。

「か、階段から突き落としたわ。わたしの想い人に近づくから……」

 悪役令嬢たちが顔を見合わせたのを見て、わたしは失敗したと思った。
 やはり、最近登場した悪役令嬢たちに、ひと昔前の悪役令嬢の苛めは古いのだと。
 すると、悪役令嬢たちは各々、笑い出したのだ。
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