わたしが悪役令嬢になった日
「随分とひどいことをするのね。でも、その方がいっそのこと清々しいわ」
「ええ。わたくしもやってみようかしら」

 オレンジ色の縦巻きロールを始め、他の悪役令嬢たちの反応も悪くないところから、悪役令嬢らしい回答を返せたらしい。
 その後、すぐにお開きとなり、わたしは付き添いの男性の案内で、庭園前に停められていた馬車に乗り込んだのだった。

「ふう~」

 馬車が走り出して息をつくと、向かいに座っていた付き添いの男性に労われたのだった。

「お疲れ様でした。屋敷に着くまで、まだまだ時間が掛かります。今のうちにお休みください」
「そうします」

 前後を走っていた悪役令嬢たちが乗った馬車は、一台、また一台と、減っていった。
 彼女たちは自分たちの作品の中に帰っていったのだろう。
 わたしもこれからカナリアがいるべき世界――『カナリアのさえずり』の中に帰るのだろう。

(そういえば、あの時は考える余裕がなかったけど)

 会場内を見渡した時に、『カナリアのさえずり』に登場する、悪役令嬢のマチルダの姿がなかった気がした。
 あちこちの作品から悪役令嬢たちが集まっていたのに、どうしてマチルダはいなかったのだろう。

  (まあ、気にしなくてもいいか。ただ単に、縦巻きロールの中に埋もれていただけかもしれないし)

 緊張が抜けたからか、身体がだるかった。
 わたしは馬車の揺れに身を任せると、そっと目を閉じたのだった。

 わたしが転生したのが、本当に『カナリアのさえずり』のヒロイン・カナリアなら、早く現状を理解しなければならない。
 今が小説でいう、どの時点で、どこまで物語が進んでいるのか。
 外伝も原作も読んではいるが、しっかり読み込んでいないので、大雑把な内容しか覚えていない。
 どこまで自分の知識が通用するかわからないが、まずは物語通りに進んでみるしかない。

 屋敷に着いて、馬車から降りると、わたしは敷地の外に向かって歩き出した。

「近くを散歩してきます」
「では、誰か人を呼んできます」
「すぐそこまで行くだけなので平気です」
「お待ちください!」

 男性の制止を聞かずに、敷地の外に出て行く。
 落ち着いて状況を整理するためにも、一人になりたかった。
 歩きながら考えたら、何か思いつくかもしれない。
 そんなことを考えながらしばらく歩いていると、大きな噴水のある公園に辿り着いたのだった。
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