【完結】完璧上司の裏の顔 オタクなコスプレ配信者♀、実はファンだった上司に溺愛求婚される
「えっと……私は今日を最後に今後動画を上げたりすることやめますが、一曲だけ最後に皆さんに聞いてほしい曲があります。もともと借金返済のためだけにやってきたけれど、音楽に没頭してる時間は最高に楽しかったです。それを聞いてくれる人がいるのも。亡くなったお父さんが作った曲、素敵だからこれだけは、みんなに聞いてほしくて、そしたらもう未練はないから引退します」

 それは井村が掘り当てた千紗の父親の個人サイトにUPしていた曲だった。
 父はギターで弾いたから、編曲してアレンジをした。音源を足すことで曲全体に重厚さを増すよう工夫した。
 千紗は、その曲を心を込めて弾いた。
三味線を膝の上にしっかりと固定し、左手で弦を押さえる。右手に持ったバチで優しく弦を弦を弾くと、音だけの世界に入っていける。この瞬間が好きだ。
 最後だと思ってたくさん練習した。死ぬほど練習した。寝ないでPCで音源を作成した。
 そのすべてを井村は温かく見守ってくれた。
 不思議と三味線を手に取ると、迷いや戸惑い、不安は消え失せた。
 PCで作成した音源が流れると、心が凪いだ。もう最後だから、ここで私の全てを出し切る。
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