【完結】完璧上司の裏の顔 オタクなコスプレ配信者♀、実はファンだった上司に溺愛求婚される

 千紗が海外に行っていいものか悩んだ時、背中を押してくれたのも母だった。

『親のために頑張らせてしまったけど、間違ってたと反省しているの。好きに生きて。もう過剰に親孝行したんだから、生きてさえくれたらなにをしたって構わない。世界中のどこにいたって、娘であることは変わらないんだし』
『でもお母さん一人になっちゃうよ』
『大丈夫、どうしても寂しくなったら呼ぶから帰ってきて。今はビデオ通話もあるし、あんまり距離は感じないんじゃないかしら。昔と違って便利よねぇ。昔はお父さんともポケベルとかで連絡取り合ってたのに』
『時代を感じるね』
『成人式の日に下駄の鼻緒が切れちゃったのよ。それで近くにあったジャズバーに入って直したんだけど、そこでお父さんがギター弾いてて一目惚れしちゃって通いつめたのよねぇ……』

 あまりにベタな父との馴れ初めやら、恋話を聞かされ、恥ずかしくなる。

『井村さんならきっと大丈夫。あの執念はただごとではないわ。あなたを好きになる理由もわかるのよねぇ』
『え? どういうこと』
『人は自分にはないものに惹かれるのよ』

 井村が自分のどこを好きなのか、全然わからない。ナスカの地上絵がどうやって描かれたのかと同じくらいわからない。この世は不思議に満ちている。

「さぁ行くわよ」

 父親の写真をもった母に付き添われ、開かれた扉の向こうにいる井村のもとへ一歩ずつ歩いて行った。
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