聡明なインテリ総長は、姫を余すことなく愛したい

こんな簡単に答えは出てくるのに、いざ本人を目の前にすると踏み出せなくなる。



虚勢を張る癖は、どうしてなかなか抜けてはくれない。



誰かに弱さを見せること。



それがこんなにも難しいことなんて、知らなかった。



翠は俺に、たくさんの感情をくれる。



喜び、怒り、哀しみ、楽しさ…喜怒哀楽と呼ばれるもの。



翠の隣にいるだけで、自分だけでは知り得ない気持ちを、感情を、俺の世界にはないものを感じ取ることができる。



だから……俺の弱さも秘密も、何もかも。



翠が知りたいと望むのなら、全て見せよう。



どんな反応が返ってきたとしても、俺にはそれを受け止める義務がある。



もう怖いだなんて、ダサいこと言ってられない。



翠が離れていってしまったら、もう一度振り向かせるまで。



何があろうと、絶対に離さない。



この命がある限り、何度だって貴女を俺の虜にしてみせる。



改めてそう決意し、緩やかに止まったタクシーを降りて歩き出した。



目の前にそびえ立つは、全面ガラス張りの高層ビル。



ここに足を運ぶのも、これで最後だ。







四方八方から差し込んでくる朝日。



それを遮る役目であるはずのブラインドは、なぜ下げられていないのか。
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