聡明なインテリ総長は、姫を余すことなく愛したい
こんな簡単に答えは出てくるのに、いざ本人を目の前にすると踏み出せなくなる。
虚勢を張る癖は、どうしてなかなか抜けてはくれない。
誰かに弱さを見せること。
それがこんなにも難しいことなんて、知らなかった。
翠は俺に、たくさんの感情をくれる。
喜び、怒り、哀しみ、楽しさ…喜怒哀楽と呼ばれるもの。
翠の隣にいるだけで、自分だけでは知り得ない気持ちを、感情を、俺の世界にはないものを感じ取ることができる。
だから……俺の弱さも秘密も、何もかも。
翠が知りたいと望むのなら、全て見せよう。
どんな反応が返ってきたとしても、俺にはそれを受け止める義務がある。
もう怖いだなんて、ダサいこと言ってられない。
翠が離れていってしまったら、もう一度振り向かせるまで。
何があろうと、絶対に離さない。
この命がある限り、何度だって貴女を俺の虜にしてみせる。
改めてそう決意し、緩やかに止まったタクシーを降りて歩き出した。
目の前にそびえ立つは、全面ガラス張りの高層ビル。
ここに足を運ぶのも、これで最後だ。
*
四方八方から差し込んでくる朝日。
それを遮る役目であるはずのブラインドは、なぜ下げられていないのか。