聡明なインテリ総長は、姫を余すことなく愛したい
「その頃の俺には、母のストレス受け止めてなだめられるほど余裕がなかった。だから、夜の街に逃げたんです。そこでカツアゲされそうな人たちを助けて暇を潰していたところを、当時の総長をしていた仁さんに拾われました」
『お前、人助けに興味ないか?ついでに話も聞いてやるからよ』
仁さんは、あの豪快な笑顔で紫呉さんを誘ったらしい。
それから仁さんのいるグループに入り、秩序維持のために活動していること、仁さんが総長をやめたがっていたことを知ったそう。
紫呉さんの口から昔の仁さんの話を聞いていてもイメージが崩れることはなく、昔から変わっていないんだなぁと思わされた。
「仁さんに「家には帰ろ」とよく言われていたので、母が寝静まったのを確認してから帰るようにしていました。顔を合わせることも少なくなり、これからしばらくはこの生活を続けよう…そう思っていた時でした。母が、交通事故で亡くなったんです」
特に表情を変えず、淡々と話す紫呉さん。
それを聞いている頃には、もう苦しいとかそういう次元をゆうに超えていた。
ただただ、やりきれない。
やり場のない気持ちだけが渦巻いているような、そんな感覚。