らんらんたるひとびと。
 温室の一角は、カフェスペースとなっていて。
 主に此処で、妖精たちは人間と対話することになっている。
 たいていは、王族の人間であるが、
 時に、王室の人間や、妖精を研究しているという専門家、森を管理する者たち…云々。
 此処へ妖精を呼び出して、妖精は人間の姿に化けて対話する。
 普段は、人間の手のひらサイズなので声が小さいし、踏みつけられる危険性もある。
 人間の姿に化けることで、ようやく対等に会話が成立するのだ。

 温室のカフェスペースへ向かうと。
 ピンクの目に見覚えのある顔が映った。
 思わず「まあ」と感嘆の声を漏らしてしまう。
 隣国、ティルレット王国でお世話になったアズマという男だ。

 アズマは紺色のスーツを着ている。
 年は、20代前半だというが、それは初めて出会ったときから変わらない。
 アズマは人間じゃなくて、神の使いだということは初めから知っていたが。
 実際、目の前にすると不思議な感覚だった。
 妖精族も年を取らないが、アズマ自身も本来の姿は年を取らない。
 不死身なので、その時代に合わせて顔・形を変えているというが…
「何十年ぶりでしょうか、アズマさん」
 温室はむわっとした熱気に包まれていたが、アズマは汗をかくこともなく涼しい顔をしている。
「いつ以来だろう? うーん…まあ、そういうの考えたことないなあ」
 アズマはピンクを椅子に座るように促す。
 ピンクは座りかけたが、
「あ、今。お茶を…」
 と言って再び立ち上がる。
「いや、お茶は大丈夫。とにかく座って」
 とアズマは言った。
 ピンクが座るのを確認すると、アズマは温室の扉のほうを眺めた。
「年々、妖精族の監視が厳しくなっているような気がする。これじゃまるで、絶滅危惧種扱いだねえ」
「セキュリティーは時代と共に強化されていますからねえ。関係者以外、妖精は人間と接触することを禁じられていますから。アズマ様はよくぞ、ここまで辿りつきましたね」
 ピンクは目の前に座るアズマをじっと見る。
 真っ白な肌、うねうねとした天パの髪の毛。
 特徴的な紫色の瞳がじっとピンクを捕らえる。
「僕は神の使いだからね。不可能はない」
「存じております」
 ピンクはニッコリと笑って答えた。
「今日はね、君に良い話を持ってきたんだ」
「良い話? 何でしょう?」
 アズマは数秒黙って、じいーとピンクを見つめて。
「セシル・マルティネス・カッチャーが生まれ変わった」
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