らんらんたるひとびと。
 フツーだったら、落ち込むところだけど。
 ま、いいかという結論に至るのは。
 別に鈴様と面談しなくても、印象が悪くなってもどうだっていいということだ。

 一度あることは二度も三度も起きるっていうけど。
 午後に開催される特技披露大会では、何でだよと突っ込まないではいられなかった。
 私は事前にピアノを用意してくださいとお願いした。
 ツバキ団長から聞いている情報によるとドラモンド侯爵はピアノを弾くことが特技らしい。だから、絶対にピアノはあるから大丈夫だと豪語していた。

 会場では、舞台があって。
 舞台の前にドラモンド侯爵と鈴様がじっとこっちを見ている。
 アスカ令嬢はフルートを吹き、ヒナタ令嬢は編み物を黙々とやって見せ、他の令嬢は歌ったり朗読したり…ご令嬢らしい特技だ。
 最後に私は舞台の上に立ったけど、頼んだはずのピアノの姿がない。
「今回は、ダンスを披露してくれるんだって? 音はないけど大丈夫?」
「へっ!? ダンスですか」

 舞台に立つと、ドラモンド侯爵は小さく見える。
 隣に座っている鈴様とは一回も目が合わない。
 面談をすっぽかしたことを怒っているんだろう。
 ダンスと言われても、どうやって踊っていいのかもわからず。
 ピアノは…やっぱりアスカ令嬢の力で用意されていないのか…

 立ち尽くす私に「どうした?」と言わんばかりに皆の視線を感じる。
 遠くに扇子をパタパタと仰ぎながらニヤニヤ笑っているアスカ令嬢が見えた。

 あーあ…とため息をついた。
「すいません、先程足首をくじいてしまったようで、ダンスは出来ません」
「そうなのかい?」
 侯爵は私の足元を見た。
「えー、ですので。簡単な手品をして終わりますね。はいっ、鈴様。私の両手を見てください。両手には何も持っていませんね」
 急に名前を呼ばれて驚いたのか、鈴様はビクッと肩を震わせてこっちを見た。
 あー、やっぱりイケメンだ。
 私は両手をパーにして鈴様に見せた後、
「おまじないをかけます。うーうーうー」
 適当な言葉を言って、両手をグーにした後。
 ゆっくりと、手をパーにしていく。
 てのひらにはきらりと光る硬貨がくっついてある。

「うわっ。どうやって硬貨を出したのだ?」

 周りは、冷ややかな表情を見せている中、目をキラキラさせる鈴様に
「秘密です。はい、私の特技は終わりです。ご清聴ありがとうございましたー」
 さっさと引っ込むに限る。
 足を引きずる演技を忘れていたのに後になって気づいたけど、まあ仕方ない。
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