らんらんたるひとびと。
大会、5日目
5日目。
私は、ドラモンド侯爵に呼び出された。
また、アスカ嬢の罠だったらどうしようと身構えたけど。
連絡をよこしたのは初日に司会をしていた骸骨さんだった。(未だに名前がわからない)
私とシナモンは昨日と同じ庭園へと向かった。
特に一人で来いとは言われていないので、シナモンと一緒でもビクビクする必要がない。
辿り着いた庭園には、一面に白い花が咲いていた。
花畑の前には幾つかのベンチがあって、ここだけ切り取って見ると公園のように見えた。
私たちに気づいて立ち上がったのは、ドラモンド侯爵とゼン。
そして、木の陰から颯爽と出てきたのはアスカ嬢と因縁のウサギ男。
…一瞬、帰ろうと思った。
「わざわざ呼びたてて、すまないねえ」
申し訳なさそうに言う侯爵に対して、
悪意に満ちたこの状況に吐きそうになりながら無理矢理、ドラモンド侯爵に微笑んで見せる。
ドラモンド侯爵は近づいてみると、背が高かった。
鈴様とは血がつながってはいないとはいえ、美形親子だよな…。
しんっ…と静まり返った空間。
風がぴたりと止まった。
「こちらのアスカ侯爵令嬢が、エアー令嬢の侍女とうちのゼンが繋がっているのではないかと疑っていてねえ。もし、つながりがあるのならば不公平だと言うものだからね」
はあ?
と声には出さずに、呆れてアスカ嬢を見る。
なんで、この場におよんでそんなこと言うのかね。
余裕たっぷりに上から見下ろすかのようにアスカ嬢は微笑んでいる。
「皆、公平に審査をしていると信じておりますわ。なのに、貴女が裏で侯爵と繋がるような細工をしていたら、こんなに悲しいことはないでしょう」
アスカ嬢の言葉に、そっくりそのまんまアンタに返してやりたいよ…とため息をついた。
「エアー令嬢。あなたは騙されてるんですよ」
ずっと黙っていたゼンが、私に話しかける。
背は170cm前後だろうか。
黒い髪をオールバックにして、髭を生やしているのを見ると。ドラモンド侯爵をリスペクトしているのかい? と突っ込みたくなる。
侯爵と違うのは、まんまるの瞳だ。
漆黒の闇を連想させるような色の瞳に綺麗な白目だと思った。
胡散臭い笑顔は、見るからにぞっとする。
「この女は、見た目は十代ですがババアなんですよ。しょうもないババアのくせに見るに堪えないメイド服を着て、自分は常に被害者ツラして頑張ってますって顔して」
そっとゼンは、シナモンに近寄った。
シナモンはガタガタと震えてゼンと目を合わせようともしない。
「俺もあんたも一族からはみ出した者だと言われているけど、結局は人間からすればバケモノなんだよ。なっ、ピンク」
さっきから言っていることが滅茶苦茶だ。
ゼンは勝手にシナモンの髪の毛を触った。
その光景を見た瞬間、とっさに手が動いていた。
ぱあんっ…という音が辺りに響いた。
まさか令嬢にビンタされるとは思っていなかったのだろう。
ゼンが驚いたようにこっちを見つめてくる。
「ドラモンド侯爵、申し訳ありませんが。わたくし、花嫁候補を辞退させていただきます」
ぺこりと頭を下げて、シナモンに「行くよ」と声をかけて。
速足で歩き出した。
振り返りたくもない。
「ミュゼ様、申し訳ございません」
か細い声が聞こえたので私は立ち止まって、シナモンを睨みつけた。
「すぐに謝るなっ! 謝ったら、こっちの非を認めることになるでしょう」
シナモンは驚いた表情でこっちを見た。
こうして、7日間の花嫁候補選抜大会だけど。
5日目で私はリタイヤした。
その後、噂で鈴様の花嫁は、アスカ令嬢に決まったというのを聞いたのだった。
つづく。
私は、ドラモンド侯爵に呼び出された。
また、アスカ嬢の罠だったらどうしようと身構えたけど。
連絡をよこしたのは初日に司会をしていた骸骨さんだった。(未だに名前がわからない)
私とシナモンは昨日と同じ庭園へと向かった。
特に一人で来いとは言われていないので、シナモンと一緒でもビクビクする必要がない。
辿り着いた庭園には、一面に白い花が咲いていた。
花畑の前には幾つかのベンチがあって、ここだけ切り取って見ると公園のように見えた。
私たちに気づいて立ち上がったのは、ドラモンド侯爵とゼン。
そして、木の陰から颯爽と出てきたのはアスカ嬢と因縁のウサギ男。
…一瞬、帰ろうと思った。
「わざわざ呼びたてて、すまないねえ」
申し訳なさそうに言う侯爵に対して、
悪意に満ちたこの状況に吐きそうになりながら無理矢理、ドラモンド侯爵に微笑んで見せる。
ドラモンド侯爵は近づいてみると、背が高かった。
鈴様とは血がつながってはいないとはいえ、美形親子だよな…。
しんっ…と静まり返った空間。
風がぴたりと止まった。
「こちらのアスカ侯爵令嬢が、エアー令嬢の侍女とうちのゼンが繋がっているのではないかと疑っていてねえ。もし、つながりがあるのならば不公平だと言うものだからね」
はあ?
と声には出さずに、呆れてアスカ嬢を見る。
なんで、この場におよんでそんなこと言うのかね。
余裕たっぷりに上から見下ろすかのようにアスカ嬢は微笑んでいる。
「皆、公平に審査をしていると信じておりますわ。なのに、貴女が裏で侯爵と繋がるような細工をしていたら、こんなに悲しいことはないでしょう」
アスカ嬢の言葉に、そっくりそのまんまアンタに返してやりたいよ…とため息をついた。
「エアー令嬢。あなたは騙されてるんですよ」
ずっと黙っていたゼンが、私に話しかける。
背は170cm前後だろうか。
黒い髪をオールバックにして、髭を生やしているのを見ると。ドラモンド侯爵をリスペクトしているのかい? と突っ込みたくなる。
侯爵と違うのは、まんまるの瞳だ。
漆黒の闇を連想させるような色の瞳に綺麗な白目だと思った。
胡散臭い笑顔は、見るからにぞっとする。
「この女は、見た目は十代ですがババアなんですよ。しょうもないババアのくせに見るに堪えないメイド服を着て、自分は常に被害者ツラして頑張ってますって顔して」
そっとゼンは、シナモンに近寄った。
シナモンはガタガタと震えてゼンと目を合わせようともしない。
「俺もあんたも一族からはみ出した者だと言われているけど、結局は人間からすればバケモノなんだよ。なっ、ピンク」
さっきから言っていることが滅茶苦茶だ。
ゼンは勝手にシナモンの髪の毛を触った。
その光景を見た瞬間、とっさに手が動いていた。
ぱあんっ…という音が辺りに響いた。
まさか令嬢にビンタされるとは思っていなかったのだろう。
ゼンが驚いたようにこっちを見つめてくる。
「ドラモンド侯爵、申し訳ありませんが。わたくし、花嫁候補を辞退させていただきます」
ぺこりと頭を下げて、シナモンに「行くよ」と声をかけて。
速足で歩き出した。
振り返りたくもない。
「ミュゼ様、申し訳ございません」
か細い声が聞こえたので私は立ち止まって、シナモンを睨みつけた。
「すぐに謝るなっ! 謝ったら、こっちの非を認めることになるでしょう」
シナモンは驚いた表情でこっちを見た。
こうして、7日間の花嫁候補選抜大会だけど。
5日目で私はリタイヤした。
その後、噂で鈴様の花嫁は、アスカ令嬢に決まったというのを聞いたのだった。
つづく。