らんらんたるひとびと。
「ミュゼも自己紹介、まだっしょ?」
 ジェイのしんみりを遮るように、白雪姫が私を指さす。
 白雪姫ごときに指をさされたのが気にくわなかったので、白雪姫の指をぱしんっと叩いた。
「あー、一応。ツバキ団長から聞いているとは思うけど。私の名前はミュゼ・キッシンジャー。一年半前に騎士団を辞めた…はずなんだけど、予備団として籍は残っているみたい。普段は各地をぷらぷらしながら、ピアニストしてます」
「ピアニストですか?」
 シナモンの表情が一瞬で変わった。
 と、同時にジェイと白雪姫が「えー」と声を出した。
「ミュゼ、騎士団辞めるはずだったのか?」
「えー、おいら知らないんだけど。その話。任務でピアニストのふりしているのかと思ってた」
 3人が同時に喋り始めたので、しまったと思った。
「もう、私。アレから戦闘能力不可だし。騎士団に残っている意味ないでしょ。ハイ、私の話は終わり。次、シナモンね」
 ごまかして、シナモンを見る。
 シナモンはきょとんとしていたが、「はい」と頷く。
「ツバキ団長様のところで、侍女をしています。宜しくお願いします」
「ハイハイッ! シナモンちゃんはどんな人がタイプですか?」
 白雪姫の質問に私とジェイは「黙れ!」と言って睨みつけた。

「ツバキ団長のところに、シナモンさんのような若い子いたっけ? 俺が前、屋敷に行ったときは、年配の人がいたような…」
 白雪姫とは違って、ジェイはシナモンのことを「さん」付けしている。
「確かに…。そうだ、シナモンって4年前くらいに会ってるよね? 市場で」
 ずっと聞きそびれていた質問だった。
 シナモンは「ああ…はい」と頷いた。
「具合悪そうだったけど、あれから大丈夫だったの?」
 私が質問すると、シナモンはじっと私を見つめる。
 白雪姫とジェイは「知り合いだったの?」と首を傾げる。
 私が4年前に、シナモンが具合悪そうにしていたから声をかけたんだ…と説明する。
 シナモンは考える素振りをして、えっと…と切り出す。
「あの時は、色々と嫌なことが重なっちゃって。…すいません。本当に」
「いや、大丈夫だよ。元気そうで良かった」
 シナモンはじぃっと真っ直ぐな目でこっちを見る。
 そんなに見られると緊張してくる。
 シナモンは私から目をそらしたかと思えば、白雪姫のほうへ目を向ける。
「ツバキ団長様の家でお世話になったのは4年前くらいからです」
「へえー。そうなんだ。シナモンちゃんってすっごい上品だから、どっかのお嬢さんなのかな? 花嫁修業で侍女をしてるとか?」
 遠慮なく質問してくる白雪姫だけど。私もシナモンの素性には興味があった。
 ツバキ団長が推薦してくるだなんて、よっぽど凄い子じゃないのか…

「…ごめんなさい。家柄は言えない決まりなので」
 しゅんと小さくなってシナモンが答える。
 言えない…というのは、よっぽどの貴族ということを示している。
 思わず、「へえ~、シナモン、貴族なの!?」と悲鳴をあげてしまう。
「いえ、私は貴族じゃなくて。代々、身分ある一族に仕える召使いの家系です」
「召使いの家系? お手伝いさんの家系なの?」
 貴族に歴史があることは承知だが、お手伝いさんの家系…というのを初めて知った。
 いや、私達庶民からしてみれば、貴族の世界はまだまだ知らないほうが多い。
「ねええねえ、代々…って言ったけど。そんなに歴史のある家系なの?」
 言葉巧みに白雪姫が質問する。
「そうですねえ…百年以上は歴史があるんですかねえ」
 私はチラッと白雪姫を見て、次にジェイを見た。
 百年…歴史ある貴族…と言えば、スペンサー家しかない。

 スペンサー家は、王族と繋がりがある由緒正しき侯爵家。
 王族と繋がりがある分、秘密事項はとにかく多い。
「なるほど」
 私たちはアイコンタクトを取りながら、心の中で頷いた。
「でもさあ、そんな由緒ある家系のシナモンさんがどうして、団長のところに?」
 ジェイが首を傾げると、シナモンは黙り込んだ。
 踏み込んだ質問だったのかもしれない。
 私は「ジェイ!」と嗜める。
「ごめん、任務を遂行するにはさ、隠し事が多すぎるのもねえ…」
 怖い顔をしてジェイが言う。
 ジェイはとにかく真面目で、仕事には厳しい。
 久しぶりに会うジェイにこんな奴だったっけ…と少し恐ろしくなる。
 シナモンは眼球を左右に動かして、考える様子だったが、
「秘密にしてもらいたいのですが…これから私の言うことは」
「何々!?」
 秘密が大好物の白雪姫はシナモンに顔を近づけてきたので、私は白雪姫の頭を殴った。
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