【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
***

 ……絶望した。

 ううん、ある程度は予測出来ていたはずの事。

 今まで教室でまともに話すチャンスを掴めなかったのに、いきなりそのチャンスを掴めるはずなんてなかったんだ。


 お昼休み、話しかけようとはしたんだけど……。


「あの、田中くん――」
「浜田さん――」


 タイミングがいいのか悪いのか、呼びかけが同時になってしまった。


「あ、先に――」

「田中! サッカーしようぜ!」
「え? いや俺は――」
「早く行かないと出来る場所上級生に取られちまうぞ⁉」


 私が先にどうぞという前に、田中くんは男子たちに連れて行かれてしまう。

 そんな感じで昼休みがダメだったから、仕方なく放課後にと思ったら……。


「浜田さん、話が――」
「あ、浜田ーお前図書委員だったよな? 今すぐ図書室に行ってくれ」
「え⁉ 今ですか?」


 今度は先に田中くんから話しかけてくれたのに、先生が遮るように私を呼んだ。


「ああ、放課後集まってくれだそうだ。スマン、今の今まで言うの忘れてた」


 笑いながら謝る先生を恨めしく思う。

 今度こそ田中くんと話が出来ると思ったのに!


「田中くん、ごめんね。話はまた明日で」

「あ、ああ……仕方ないよな」


 お互い困ったように眉を寄せ、さようならと挨拶をして別れた。
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