【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
「っ!」


 落ちると理解した途端、怖くて瞬時に体が強張る。

 悲鳴が喉の奥で止まって、すぐに来る痛みに備えるようにギュッと目を閉じた。

 ……でも。


 ……あ、あれ?

 痛くない?


 痛みを感じるどころか、落ちる感覚もなくて。

 どちらかというと、ふわふわ浮いているような感じ。

 そっと目を開けると、実際にふわふわ浮いていてビックリする。

 今度は驚きすぎて声が出なかった。


「浜田さん! 今、ゆっくり下ろすから」


 いつの間にかガードレールの所まで来ていた田中くんが、そう叫んで河川敷の所に飛び降りる。

 彼の言葉通りゆっくり下りていった私の体は、そのまま田中くんの腕の中におさまった。

 お姫様抱っこされている状態に私は状況も忘れてカァッと顔を赤くする。

 田中くんの力強い腕と体温を感じて、一気に鼓動が駆け足になった。


「浜田さん、大丈夫? ケガはない?」


 バクバクと激しく鳴る心臓をどう落ち着かせればいいのか分からない私の顔を田中くんが覗き込む。

 眼鏡の奥の目が心配そうな色をしていたから、私は安心させたくて頑張って笑顔を作った。


「大丈夫だよ。ありがとう、田中くん」

「よかった……」


 ホッとしてくれた田中くんを見て、私の心臓も少し落ち着きを取り戻す。

 まだ、ドキドキするけれど。
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