【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
「俺が、浜田さんを守るから」

「え……」


 ドキンッ


 すぐ近くで、真剣な目を私に向ける田中くん。

 スッキリした目はいつにも増してキリッとしていてカッコ良い。

 私は恐怖も忘れてドキドキと鼓動を速めてしまった。


「ちゃんとつかまってて」

「え? あっ」


 言い終えると、田中くんは私を抱き上げたまま歩き出す。

 動かれて揺れて、思わず田中くんの肩につかまっちゃった。


「え? あ、あの、田中くん?」

「ん? なに?」


 呼び掛けると、さっきまでの真剣な目を和らげて優しい微笑みを向けてくれる田中くん。

 その表情にもまたドキドキしながら私は口を開いた。


「その……私、自分で歩けるよ? それに田中くん、わき腹のケガだっ治ってないんじゃあ……」


 昨日見た痣はそんなにすぐ治るようなものじゃなかった。

 今だって本当は痛いんじゃないのかな?

 なのに、田中くんは痛みなんて感じさせない優しい微笑みを崩さないまま「いいから」って言葉一つで私を黙らせた。


 いや! よくないからね⁉

 田中くんのケガも気になるけど、この体勢普通に恥ずかしいしドキドキしすぎて心臓飛び出しちゃいそうだから!

 色々聞きたいことがあるはずなのに頭回らないし!


 私の大荒れな心の中なんて知るわけがない田中くんは、そのまま落ちたところから少し離れた橋の下に入った。


「ここでいいか」


 そう呟くとやっと私を降ろしてくれる。
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