【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
 お互い気恥ずかしい様な雰囲気になって、一度顔を逸らし離れた。

 パタパタと顔を手であおいで、熱を冷まし考える。


「えっと、ってことは今朝西園寺先輩と一緒にいたのも護衛のため?」


 ある意味一番知りたいこと。

 好きですよ、と叫んだ言葉が西園寺先輩に向けたわけじゃないって確認したかった。

 お願い、そうだって言って! と、心の中で願いながら田中くんの言葉を待つ。


「今朝? え? 浜田さん、見てたの?」


 照れていた顔がさらに赤くなる。

 嫌な予感を覚えつつも頷くと、予想とは違った答えが返ってきた。


「あ、あれは……西園寺先輩さ、兄さんの事が好きみたいで……兄さんの話聞かせてくれって頼まれたんだよ」

「お兄さん……? でも、田中くん好きだとか言ってて……」

「ちょっ、それも聞いてたのかよ⁉ あー……あれは、話の流れで西園寺先輩に俺には好きな子いないのかって聞かれて……」


 ドキッとする。

 思っていたのとは違ったけれど、西園寺先輩のことを好きだと言ったわけじゃないとわかって安心した。

 でも、その話の流れであの言葉を言ったってことは……。


「で、気になる子はいるって答えたら『好きなんでしょー?』ってからかわれて……まあ、勢いで」

「そう、なんだ……」


 勢いで言ったことだとしても、気になる子はいるんだね……。

 その気になる子が私だったらいいのに、なんて。

 有り得ないことを願ってしまいそうになる。
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